読書と背伸び
- 作者: ウィトゲンシュタイン,野矢茂樹
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2003/08/20
- メディア: 文庫
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数学を知らない僕が、ウィトゲンシュタインの著作を買ったときの話をしたい。
言語学とか論理学というと、皆様どういうイメージを思いうかべるだろうか。僕が真っ先に思い出すのは、アリストテレスの「三段論法」だ。
「アリストテレスは人間である。人間は死ぬ。ゆえに、アリストテレスは死ぬ」
A=B、B=C、ゆえにA=Cというアレだ。数学とか倫理などでならった記憶がある人も多いと思う。何よりも単純明快かつ、駆使すれば何だか頭がよくなった気分になる。
ただ、よく考えてみるとおかしなことになるのが、この三段論法だ。アリストテレスは人間じゃないかもしれない、という可能性が1%でも考えられる場合、この論理は成り立たなくなってしまう。アリストテレスは宇宙人かもしれないし、人間は医療の発達で不老不死になるかもしれない。お陰で、アリストテレスはよくわからない存在であり、ちゃんと死ぬとも不老不死であるとも言えない。
三段論法は、こういった欠陥がありながらも、アリストテレスの時代から長いあいだ支持され続けた。これをひっくり返したのがウィトゲンシュタインその人であると言うのだから、ちょっと読んでみたいなと、猛烈に興味を抱いた。ブックオフで中公クラシックスの論理哲学論考を、660円で購入した。
1読してギブアップだった。
(おそらく)わかりやすく書かれている解説書を読んでも、中学数学の知識が欠損し、数学を駆使して物事を考えることに慣れていない僕は、関数を使った思考法に翻弄され続けた。読めば読むほど、まずは数学知識、数学思考の醸成が必要と思われ、自分が数学ができないことに強く不満を感じた。理解度も並の人間以下だったように思える。肝心な「うおおお、これは確かに論理学の歴史を変えた一冊なのだー!」という実感も味わえなかったのだ。
では、このブックオフで使った660円の『論理哲学論考』購入費用は、浪費だったのか。そしてこの、理解もできない『論理哲学論考』に挑戦しようとしたことは、時間の浪費だったのだろうか。そうは思いたくない。間違いなく、読んでよかった。得たものは大きい。数学に対して興味をもったきっかけになったし、いつか完全理解してやるぞという野望が生まれた。今ようやく、高校1年生の数学の範囲くらいまでをおさらい中だ。
「教養を身につけるのには、まず、前提となる基礎知識を入れなければならない」という意見がある。この意見が言いたいことは非常によく分かる。人間は、すでに理解している物事と関連付けたり、連想させたりすることによって、新しい知識を得る。これにのっとって、徐々に認識できる情報を広げるために、平易な内容の情報に触れ、それを理解し、あとからより緻密で理解に時間のかかる情報を、すでに理解している情報を駆使して理解せよ、というものだ。
ただ、試験勉強ならいざしらず、読書をすることに、基礎→応用という考え方は、むしろ読書のモチベーションを下げる要因になりかねない。読みたい本を読んでいく中で、わからん情報が大半だったなと思ったら、「背伸びしてしまった」と自分の無知を呪わず、この本が理解できたらどんなに嬉しいか?とか、難しい本に挑戦していること事態がすげえ!とか思うだけで、味気のない読書が楽しくなるよ。
なので、背伸びなんて気にしないで、とにかく本をよむことを楽しむってのがいいよなあと、おい、それを最初から言えという結論で締めくくりたい。
『命題コレクション 社会学』──社会学古典の勉強に頼もしい
「社会学部でした。」というと、皆様キョトンとされる。
経済学部、法学部、医学部、農学部、工学部、……シンプルな学部は、そこでどのようなことを勉強したのかが分かるのが良い。文部科学省のお達しで、新しい学校であればあるほど、よくわからない長めの学部が増えてきている。千葉県浦安市にある明海大学には、「ホスピタリティー・ツーリズム学部ホスピタリティー・ツーリズム学科」という名前の学部があるらしい。そういう名前の学部だったらまだ、面食らうというかキョトンとなるのは分かる。ただ、シンプルな癖して中身がスッと入ってこない学部が「社会学部」だ。
高校3年生の受験のときは、「なんか社会に関する学問なんだろうな~」という感覚だった。予想は見事に当たり、マジで「なんか社会に関係することを学問する」のが社会学だ。
おい!そんないい加減なことを言っているとネットヤンキーに絡まれるぞ!と思いながらも、マジなんだから仕方がない。社会学をハチャメチャに研究したわけじゃないから、僕なんかが言っても単なる雑音にしかならんかもしれない。しかし、こんな風に思っているのは僕だけじゃないのだ。
「社会学入門本」にカテゴライズされる本の序章には、「いやぁ……社会学とは?って質問されても……うーん、定義とかちょっとよく、はぁい、わっかんないっすね~~」みたいなことが書いてあるからだ。
社会学研究のお供にうってつけの本書、『命題コレクション 社会学』も然り。
社会学とは何か。その対象の定義はどうなっているかというと、今日でもなお、それは人によって多少とも異なっている。社会関係、社会集団、社会システム、社会構造、社会制度、等々。社会学を学ぼうとする人にとっては、これらの定義を最初に与えられても、何のことだかよくわからない。
書き出しはこれである。この先が心配になってくる。社会学って何!?と答えを急ぐ我々を、どうどうと宥めようとしてくれている。けれども現実は残酷。真理なんてない。たかだか、「社会学とは何か?」という問ごときで大げさかもしれないが、定義絶対決めたいマンとか、ほら、いるじゃん。そういう人には、社会学は向いていないのだ。
なぜ社会学がこれほどまでに漠然としちゃったのか。本書曰く、
それは、社会という言葉が日常語としては多義的なので、この言葉を含む定義からは、社会学のイメージが鮮明に浮かんでこないためである。
そもそも「社会」という言葉が漠然としているからであるという身も蓋もない理由だ。もうこれだけで僕なんかは、だからこそ面白いと思ってしまう。あやふやなグラつく足場の上で、せっせと社会関係、社会集団、社会システム、社会構造、社会制度、等々を研究しているのが社会学者だ。常時アノミー状態かもしれない。それは言い過ぎか。
ところで、哲学とか経済学とか宗教学などにライトな本が多いのに、社会学にはそれほど無いという印象がある。Amazonで「社会学」と検索してみてほしい。ビジネス本界隈から殆ど相手にされていないように見受けられる。
なぜか?それは社会学には「共通言語」がさほど無いからだ。経済学や法学などのように、これさえ覚えとけば社会学の真髄を知ったも同然!というものが無い。数学で言うところの、公理が無い。あったら多分、小室直樹さんあたりがそういう本を書いていそうだけれど、いよいよ書かずしてこの世を去った。(僕が知らないだけの可能性あるから、あったら教えてください)
本書は、社会学的営みをビビットに感じるのにうってつけだ。その命題がどのようなロジックであったかというのを、命題に対する反論なども取り上げながら例示をし、社会学とはどういう学問なのかということを、リアルにイメージしてもらうために書かれている。中にはどうやら社会学じゃないかもしれないというものまであるが、
これら50の命題の中には、社会学の特定の領域にかかわる理論や歴史理論、文化比較の理論も含まれている。これらを除外すれば、社会学の命題集は貧弱な内容なものになってしまう。
と正直に書いてある。なんか、良くない?ますます「じゃあ社会学って何なんだ?」となる。どこからどこまでが社会学なのか。決まってないのも面白い。
文章は古い書籍だけあって、些か硬い印象がある。中級者向けかもしれないけれど、社会学入門本に飽きてきた人(そんなニッチな奴いるのか)とか、社会学に興味ある人、全国の社会学部生は読んでおいて損はない。命題ごとに分けられているので、辞書的に使えるというメリットもある。読んでみると、古典とあなたとの距離が、少しだけ近くなるかもしれない。
『コンピュータはなぜ動くのか』──今さら聞けない仕組みの話
コンピュータはなぜ動くのか?知っておきたいハードウエア&ソフトウエアの基礎知識?
- 作者: 矢沢久雄,日経ソフトウエア
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2003/06/02
- メディア: 単行本
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図書館で借りた本の中に、あたりがあったので記事を書く。
身の回りにコンピュータが溢れかえっている。我々は、それらが「なぜ動くのか」などと疑問にすら思わない。そこにあることが当たり前になっている。いちいち、なぜ動くのか?という効率の悪いことを考えている暇はない。自分にとって重要な多くの情報が、日々コンピュータを伝って届くから、そっちばかりに目が行く。コンピュータそのものに対する興味関心は、新しく新調する時に「どの機種にしようかな」という程度のものである。
コンピュータは動けばそれでいい。まとめサイトや、TwitterやFacebookに流れる情報を追い、YouTubeやニコニコ動画で時間を潰し、たまにエロコンテンツを閲覧する道具であればいいと思っている人は多いと思う。何が言いたいかというと、多くの人が、「コンピュータはなぜ動くのか」について知らなくても、何も困らないのだ。
しかし、ちょっと古いデータだけれども、コンピュータについて露ほども分からない状態であることが不安になるデータがある。
調査・統計ニュース - 世界のPC台数が10億台を突破,2014年には20億台に:ITpro
米Gartnerは米国時間2008年6月23日,世界中で設置されているパソコンの台数が10億台を超えたとする調査結果を発表した。同社の試算によると,世界のパソコン台数はインストール・ベースで年間12%増加しており,2014年の前半には20億台を突破する見込み。
最新のデータを見つけることができず、自分のネットリテラシーの低さも恐いが、それはさておく。
よくわからんけど何かとスゲエ役に立つコンピュータは、パソコンだけで2008年時点で約10億台も世界にあり、すでに約20億台突破しているかもしれないという。携帯電話やらスマートフォンやらその他コンピュータを合わせればすごい数になる。少なくとも日本人の人口の20倍ものパソコンがある世の中で、果たしてコンピュータを分からなくてもいいかも、と思えるか。
「よくわからないが、便利である」というのもおかしな話じゃないか。なぜそれが便利なのかを知らないまま使うというのは、「良くわからんけど、この薬を打つとすげえ気持ちいいんだよね~~」とか言いながらドラッグを使用するのと同じだ。
そうは言っても難しい!絶対コンピュータなんてわかりません!20代後半の人でも、こんな風に思っている人がいる。年齢が上がっていくにつれ、「コンピュータとは縁遠い」なんて思っている人が増えているがそんなことは無い。周囲を見よ。すでに逃げ場なし。目に見えずとも、我々は20億台超のコンピュータに囲まれて生活しているのだ。
だから本書の第1章だけでも読んでほしい。コンピュータ入門本の決定版なだけあって、非常にわかりやすいし、コンピュータをもっと知りたくなるような仕掛けがたくさん施されている。第1章のはじめには、このように書かれている。
現在では高度に複雑化してしまったように思えるコンピュータですが、その基本的な仕組みは驚くほどシンプルです。約50年前の初期のコンピュータの時代から何も変わっていません。コンピュータを取り扱う上で絶対的な基礎となることは、たったの3つだけです。これを「コンピュータの3大原則」と呼ぶことにしましょう。どんなに高度で難解な最新技術であっても、この3大原則に照らし合わせて説明できます。
なんとも勇気が出て来る書き出しだ。2003年に出版された古めの書籍ではあるが、その時点で50年前のコンピュータの時代から何も変わっていない。ということは、それだけコンピュータの仕組みとは、絶対的なものであり、凄いのと同時に、今作られているコンピュータの仕組みも原理原則の部分で大きく変わっていないはずだと予測がつく。
基本的にはパソコンで説明されているが、スマートフォンなども原理原則、基本的な仕組みは同じだろうから、読んでおいて損はない。ここではコンピュータの3大原則を紹介してみる。
1.コンピュータは、入力、演算、出力を行う装置である
2.プログラムは、命令とデータの集合体である
3.コンピュータの都合は、人間の感覚と異なる場合がある
これがコンピュータ理解の秘伝だ。この秘伝を知ったらば、あなたはコンピュータの8割を理解したことに他ならない。大げさかといえばそうでもない。それぞれの解説に関しては、是非本書を読んで確認してみてほしい。僕の駄文であーだこーだ書いたものを読むよりも、スッと入ってくるだろう。