点の記録

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『哲学はなぜ役に立つのか?』―概念で考えることが哲学

 

哲学はなぜ役に立つのか?

哲学はなぜ役に立つのか?

 

「昔の思想を勉強したり、教養として頭に入れておくということは、現代社会を理解する上でとても重要である」ということは、ビジネス本や自己啓発本などによく見られる意見です。しかし、昨今活躍されている日本のビジネスパーソンでも、「古典を読んだところでビジネスには何の役にも立たない」「思想哲学は非科学的だし、現代社会で通用するとは思えない」「時間がない」「時間の無駄」といった理由をつけて、過去の叡智に見向きもしない方々もいるでしょう。

本書は是非、そうした社会人の方々、これから哲学の道に進もうとしている方々、哲学が好きな中高生には是非読んで頂きたいです。

ところで、「哲学とは?」という問に対して明確に答えられる人はいないと思います。それが例え賢明で高名な学者であってもです。哲学史の入門本として定評がある『世界十五大哲学』の中では、「哲学にはいくつもの"かお"があるのだ」とあります。

(前略)過去のいろいろの哲学者たちが、これこそが本当の哲学だと考えるものを自分で探求していった結果、哲学はいくつもの側面を持つようになった。 
大井正・寺沢恒信『世界十五大哲学』

哲学をこれから勉強しようと思っている方々は、ミレトスのタレス、あるいはそれ以前から現在に至るまで、ありとあらゆる哲学が生み出され、「これこそが哲学である」と定義できない状況であることを踏まえた上で、哲学に関する知識に触れることがとても重要だと思います。

さて本題に入りましょう。

本書は月刊誌サイゾーで連載されていた著者のコラム『哲学者・萱野稔人の"超"現代哲学講座』の、2010年8月号~2012年3・4月号までの連載分をまとめた内容になっています。

本書における哲学とは「ものごとをとらえるために概念的に考えたり、概念を練り上げたり、新たに概念を創出したりする知的営みのこと」であるとしています。「概念的に考えること」とはまた抽象的な言葉で説明がされていますね。

著者の萱野さんは国家を概念的に考えることを例に挙げています。「国家とは領域・人民・主権によって成り立つ政治共同体だ」という説明に終わることは概念的とは言えないのだそうです。何故ならそれは国家の構成要素を答えただけ。哲学の興味は「なぜ国家が存在するのか」という問題を解決することにあります。

そうした前提を踏まえ、「哲学は役に立つのか」という問に対して、著者は「役に立つ」と断言しています。

 この「哲学なんて役に立つの?」という問いは哲学に対してしばしば投げかけられる問いですね。哲学を大学で教える多くの学者たちもこの問いに悩まされてきました。
 学者のなかには、この問いに対して「いや、哲学は実学と違って役に立たないからこそ価値があるのだ」と答える人が結構います。
 はっきりいって、私はそういう人にはもう退場して欲しいと思います。そんなことしかいえないのなら、学者の看板を下ろすべきでしょう。哲学もやめたほうがいいですね。
(同上)

「哲学役立たず説」に対して実に小気味よい一刀両断。

ところで、哲学は何故役に立たないというイメージがあるのでしょうか。それは大学などで教えられる哲学は「哲学史」というジャンルであることが多く、実践的にその概念を使って物事を捉えようとしたりする授業というのが実は少ないからという理由があります。歴史の授業って「なんだか役に立ちそうにないなあ」と思ったことが何度かあると思いますが、哲学でも同じようなことが言えるのでしょう。

萱野さんは哲学の効用についても述べています。

 いわゆる頭のいい人というのはどんな人なのかを考えてみてもいいかもしれません。(中略)そうした人たちは、おしなべて概念的にものごとをとらえるのが上手な人達です。いいかえると、より哲学を実践している人たちですね。

つまり「頭が良くなる」のだそうです。認知科学者の苫米地英人さんも同じようなことを「ゲシュタルト」や「抽象度」という概念を使って説明されてました。目先の問題に囚われず、概念的にものごとを捉える、抽象的に捉えることによって、よりその問題に対する考察が良い物になるという点が、哲学することの効用と言えるでしょう。

萱野さんはこの本の中で、20の問いに対して既存の哲学概念を参考にしながら議論を展開していきます。例えば、第13講 「人を殺してはいけない」という道徳と死刑は両立するか?」ではイマヌエル・カント『実践理性批判』の代表的な考え方である「定言命法」を、現代日本でも度々議論になる「死刑の是非」という文脈と絡めて、「普遍的な道徳」について考察しています。ここと第14講のチェーザレ・ベッカリーア『犯罪と刑罰』を絡めた考察は非常に面白いので是非読んでみて欲しいです。

今まで哲学という分野に対して苦手意識を持っていた人にとっても、哲学など意味が無いと思っている人にとってもおすすめです。「概念的に考えるって楽しいぞ」という視点が備わる良書だと思いますよ。

 

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