点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

映画『犬神家の一族(1976年)』──何も知らない状態で、もう一度観たい映画

まだ『君の名は』観てません

君の名は。』で賑わっている邦画界隈です。「日本の映画、やっぱすげぇな!」という雰囲気が出てきた『シン・ゴジラ』から引き続き、こちらも盛況のようですね。この夏、映画館で映画を観るという体験を久々に味わい、「やっぱり映画っていいもんだな」と思った人たちもいるのではないでしょうか。

ところでAchelouは貧乏のくせに『シン・ゴジラ』を3回も観たせいで、金策に苦心し、『君の名は。』をいち早く見ることは叶わず、SNS中毒が災いし、結末までとは言いませんが、タイムラインに流れてくる断片的な情報から、話の大筋を組み立てることができてしまい、劇場まで足を運ぶか否か、少し迷ってしまっているのが現状です。

いいんだもん!本だって、ベストセラーヒット作品をヒットしている時分に読んでしまうと、周囲の評価に流されて、しっかりと読むことができないというのはよくあることです。みんなが良い良い言っている間は『君の名は。』別に観に行かなくても良いかなと捻くれてしまった私は、フラフラとAmazonプライム・ビデオを眺めているときに、たまたま見つけた『犬神家の一族』というタイトルを、なんの気無しにクリックしていたのです。そしたらね、これがまあ、面白かったのです。今更ですが、横溝正史市川崑の世界にハマってしまいそうです。

犬神家の一族(1976年)』

犬神家の一族  ブルーレイ [Blu-ray]

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犬神家の一族』は横溝正史のミステリー小説、『犬神家の一族』が原作の邦画です。監督は『野火』『おとうと』その他の横溝作品の映像化で知られていた故・市川崑

日本の製薬事業王、犬神佐兵衛が残した遺言状によって、その一族間で次々と恐ろしい殺人が起きてしまうという内容。主人公はご存知、金田一耕助。もじゃもじゃ頭とヨレヨレの和服、華奢な体躯という優秀な私立探偵とは思えない風貌の男が、人当たりのよい人相、観察眼、推理力でもって事件の謎を解決していく……のと同時に、同時並行して一人、また一人と犬神家の血族が殺されていく。急げ金田一!とハラハラする反面、次は誰なんだろう?という、不謹慎なワクワク感を同時に感じます。

遺言状の内容は、一族全員が揃ってから公開してくれという犬神佐兵衛の申し出によって、一族全員の前で公開されることになるのですが、その遺言状に納得のいかない犬神家の面々の乱れようなんかは、もし自分が犬神家の一族だったらどんな気持ちか、なんて想像する間もなく、「うわぁ、きっついなぁ、こいつら金のことしか考えてねえや、きったねえなぁ」と思ってしまうくらいの阿鼻叫喚っぷりは見ものです。

犬神家の一族(1976)

犬神家の一族(1976)

 

説得力のある演出と演技

推理サスペンスというと、夜9時あたりからやる「2時間ドラマ」を想像する人は多いと思います。制作費の関係で安っぽくなってしまい、巧妙なテクニックもかすんで見えてしまうことも多いと思います。ストーリーや役者の演技に粗があると、それも目立ってしまいます。『犬神家の一族』は作品を通して、重厚な雰囲気が漂っています。決して昔の映画だからというわけではなく、世界観に「説得力」があるように感じるのです。

この映画以前から金田一シリーズの映画は公開されていたらしいのですが、原作通りの姿で金田一耕助が登場したのは、この『犬神家の一族』が初。僕は原作のファンというわけではありませんが、小説にしろマンガにしろ、実写映画化する際、「えっ!?お前が主人公かよ!!」というのはよくあることです。せめてさ、キャラだけでも原作どおりにしようぜ?と思うくらい、金田一耕助の映画での人物像は、他の作品になるとコロコロ変わります。

肝心のストーリーの変更ですが、どうやらあります。変更点を纏めたサイトをみる限り、映画というエンターテイメントに動きを付けるために仕方のないことだったのかなと思います。やや矛盾とか、それそういう風に変えちゃったの?というムリがあるのですが、先述の重厚な雰囲気によってカバーされています。全然、安っぽくない。市川崑作品を観たのは初めてなので、他の市川作品を観ていない分語れることは少ないのですが、独特の映像美、緊迫感のあるシーンでは、テンポの良い切れ味のあるカット割りなどが特徴的でした。ありきたりなことしか言えませんが、この鋭い演出が、犬神家の不気味さと、世界観の説得力に大きく寄与しているように思います。

犬神家の一族 (角川文庫―金田一耕助ファイル)

犬神家の一族 (角川文庫―金田一耕助ファイル)

 

「にわか」による金田一

シャーロック・ホームズがロバート・ダウニーJrやベネディクト・カンバーバッチの映像作品で取り上げられ、特に後者によってホームズが再燃するという気運になっています。名探偵というと、ホームズのようなスマートなイメージがあるかと思いますが、金田一耕助も、御存知の通り、それほどスマートな印象はありません。ホームズのように武道に心得があるわけでもないし、運動神経もありません。

石坂浩二さんが演じる金田一は、見た目こそ小汚い三流書生の青年のようですが、人情味に溢れ、一生懸命に捜査をしている姿をみて、手を貸したくなるような、そんな印象が受け取れます。観衆といっしょに事件に翻弄されていくのを見ると、「金田一さん!あんたが頼りなのに!」と心もとなくなり、ホームズみたく「安心感」はありません。「頼むよ!金田一さん!はよ事件解決してくれ!」でないと、犠牲者が出続けてしまうのです。しかし、頼りなく描かれているところから、真相に近づくにつれて彼の才能が目に見えて表れてくると、もうカッコいい。普段からカッコいいとは言えないけれど、やるときゃやる男、それが金田一耕助なんじゃないでしょうか。そういうヒーローが好きな方、是非和製ホームズの魅力にどっぷりと浸かってみてください。