点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

Pha著『ニートの歩き方』──働かない方がいい理由を考える

 

ニートの歩き方 ――お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法

ニートの歩き方 ――お金がなくても楽しく暮らすためのインターネット活用法

 

 自分の心をふるいにかけられる本というのは少ない。『ニートの歩き方』は数少ないそういう本だなと思った。本書を読むことによって、自分が今、いかに「働きたくない」状態であるかというのが分かってしまったのだ。それはなぜか?『ニートの歩き方』の中に登場する彼らの生活が羨ましくって仕方がない、と感じたからだ。

ネコと一緒に1日戯れるというのだったり、ニートの1日として紹介されている時間の過ごし方を読むと、ハチャメチャに良いなと思ってしまう。しかし、ニートニートなりに大変なのだと知る。特に、ニートになるとき。どういうプロセスを経てニートと自称するまでに至ったのかを読めば、著者のPhaさんの苦悩が伺える。

日本は職業選択の自由が認められながらも、勤労の義務が憲法で規定されている。憲法について無知な僕からすると、不思議なもんなだと思う。職業選択の自由があるならば、勤労の義務なんて必要ないんじゃないか。自分で働いて手にした金を使って買ったものは、自分のものになる。それを望まないのだったら無職を選んでもよかろうに。「働くことは義務」ということは、「勤労全般をしたくない」という正真正銘のニートマインドを持った人たちからすると、疎外感や俺だめだな、と感じさせてしまう原因にもなりうるんじゃないかな。

「働かなくてはならない」という人であればあるほど、本書を読んでほしい。きっと、最初の数ページであまりの価値観の違いにイライラするだろう。しかしそのイライラには、「憧れ」や「嫉妬」という感情が少しずつ入り込んでいることに気がついてくるはずだ。

「いやいや働いている人」からすると、「働かない」「働かなくても良い」という道にふっきれた彼らの選択の先にある生活は魅力的に映るかもしれない。しかしそのかわり、彼らは結婚を諦め、贅沢な暮らしを諦め、金のかからない趣味に興じ、基本的にはインターネットで人間関係を築き上げている。一般的な価値観からすると、彼らの暮らしぶりは怠惰に見えるかもしれない。

しかし彼らにとってそれらは「諦め」ではない。自分の価値観にあった「選択」をしているだけだ。バリバリのビジネスマンが金欲しさにあくせく働き、金持ちが強い資本主義のフィールドで自己実現という永遠に達成しない目標を追い求める、という生活は波乱万丈のリスクがある。そういう生活を望む人もいれば、著者のように望まない人もいる。

ニートの実態や心情を知るのに適している、と言うと本物のニートの人たちに怒られるかもしれない。個人的にはそういう側面でも大いに参考になる資料であると思っている。少なくとも、「働かないこと」を選択している人がどういう思考のプロセスを経て働かないのか?を知るのには良い本だ。その視点をみにつけて、何の役に立つのか?

それは今の勤め先について考えるときに役に立つ。「働いたほうがいい理由」は多くの日本人がすぐに思いつくだろうが、「働かない方がいい理由」というのは、なぜか考えない。この本はまさに、働かないほうがいい理由を教えてくれる。それをどうして考えるべきなのか?冒頭で言った、自分の心をふるいにかけるためでる。今の勤め先で良いのか?自分はなぜ働いているのか?働くとは自分にとってどういうことなのか?気が付かないほうがストレスを感じずに生きられたかもしれないが、会社や社会の当たり前を疑い、洗脳状態から解き放たれるには、こうした真逆に疑うとういう思考法が役に立つ。その際、働かない方がいい理由を考えるときの参考になるのが本書だ。

彼らニートは生きることに希望を見いだせない人たちではない。いかに働かずに生きるか?ということに対して深く考え、それを実践している。金さえあれば世の中うまくいくと思い込んでいる人たちには、本書を是非勧めたい。金なんてなくても、充実した生活を送っている人たちもいる。