点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

昭和元禄落語心中──落語の入り口は漫画でもアニメでもいい

 

昭和元禄落語心中(1) (ITANコミックス)

昭和元禄落語心中(1) (ITANコミックス)

 

落語を初めて聞いたのは確か小学生の頃。オンボロ小学校の体育館の中だった。気だるそうな教頭先生の紹介で「それではどうぞ~」なんて紹介されながら、立派な羽織を着たおっさんとおばさんが、体育館に備え付けられた舞台に姿をあらわす。これがまあ、つまらないのなんの。小学生の頃の落語体験は、体育座りで足がしびれたという程度にしか記憶に残らなかった。唯一面白かったのは「紙切り」と呼ばれるもので、ハサミを使って巧みに形をつくる芸。ワンピースのゴーイングメリー号とルフィを形作ってみせた。周囲の同級生も、ここでは大笑いしていた。

落語って面白いかも?と思ったのは高校生の頃、指定管理者制度によって民間化されてしまった演芸ホールで見たものだ。あれは何の話だったか覚えている。古典落語の転失気(てんしき)だ。

あらすじをざっくり。

体調不良の和尚が医者にかかった。「"てんしき"は無いか?」と尋ねられたとき、知りもしないのにその場を取り繕う。和尚は寺に戻って小僧を呼び、「"てんしき"を知っているか?」と尋ねると知らないというので、和尚は威厳を守ろうと「"てんしき"を今すぐに教えてやってはお前のためにならん。町内でてんしきを借りてこい」と知ったぶりで小僧に命じる。

苦心して探すも"てんしき"なんて見つからず、困った末にたどり着いた和尚を診断した医者にたどり着くと、「屁のことである。胃腸の調子を見るために聞いたのだ」という。和尚が何も知らないまま自分をこき使っていたということを悟った小僧は、和尚に仕返しをしようとする……続きは下の動画でどうぞ。

今をときめく柳家喬太郎の転失気がありました。

www.youtube.com

 これが実に楽しい落語体験だった。それで、それなりにハマった。ハマったと言ってもどっぷりハマったというほどのものではない。YouTubeニコニコ動画が盛んになってきていたころで、気分がすぐれないときとか、なんだか具合が悪いというようなとき、ちょっとした気付けとしていたのが落語だった。同級生にバレたら、ただでさえ「老けキャラ」であったのが更に拍車がかかってしまうのが恐ろしいという、器がどうしようもなく小さな理由で秘匿にしていた。

やい!さっきから読んでりゃ、昭和元禄落語心中の話のひとっつも出てきやしねぇじゃねぇかよ!

ごめんね、そろそろするね。

 落語プチブームを高校生で体感し、大学2年の夏ごろまで聞いていたような気がしますが、そこからバイトと学業の両立をしなければならなくなって、空いた時間には勉強もせずにぼーっと過ごしておりました。落語なんて長ったらしいものを聞く体力なんてねーやい!といった具合でめっきり聞かなくなってしまった。

ところがこの昭和元禄落語心中という漫画を彼女さんが持ってきてくれた。これが面白かった。いまじゃこの作品がきっかけで落語をもう一度聞くようになって、誰にも内緒で寄席にも行っちゃった。

作者の雲田はるこさんは売れっ子のBL漫画家ですが、この話にはBL要素は欠片もございません。男子同士のくんずほぐれつを警戒していらっしゃる方々は安心して読んでみてほしい。作者のファンも、落語のファンも読んでみればいいし、今絶賛アニメ放映中なので漫画がどうにもダメだって人はアニメでもいい。アマゾンプライム会員ならそっちでも見れます。

主人公は元ヤクザの下っ端の与太郎。多分本名じゃないけど与太郎。物語はこいつが刑務所から出所するところから始まる。刑務所内の落語会で見た昭和最後の大名人八雲の芸に惚れ、出所したその足で弟子入り志願をする。弟子を取らないと有名だった八雲だが何を思ったか道端で急に出会った刑務所帰りの男を広い、自分の弟子にしてしまう。最初はダメダメだった主人公与太郎が、かつての名人助六のエッセンスを取り入れ頭角をあらわすようになると、八雲は同じ師匠のもとで切磋琢磨した助六と弟子を重ねてうんぬん。要は落語を装置とした友情人情人間ドラマです。

この作品を読むにあたっては、死神という演目が全編に渡ってキーワードになっているので一度YouTubeなどで見ていると、漫画の中の八雲がより一層輝いて見えるのでオススメ。全10館完結済み。長くなりそうな話をぎゅぎゅっとまとめた手腕に感激。小説でもなんでもそうだけど、話が長けりゃ良いってもんじゃないのに、人気なものほどながーくなる傾向にあるのは本当にどうなんですかね。

ちょっと前に注目された『じょしらく』とは比べ物にならないくらい、ガチの落語ドラマですからご安心めされよ。こういうところから落語に興味を持った人が増えてくれれば、地元の所属している親子劇場で「何を見せるか?」というときに、「落語なんてどうすかねぇ!!」と声を大にして言えるので、若い子も奥様方も読もう!仕事に疲れたサラリーマンはすっ飛ばして落語を見てからこの作品を読もう。いやいや見方なんて人それぞれ。でも落語に興味もってくれたらそれでいい。

転失気に出て来る和尚ばりに偉そうなことを言って申し訳ないが、日本の文化、知らにゃ損です。入り口は至る所にありますが、まずは漫画やアニメから入っちゃうのもアリじゃないかな。

 

 

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