点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

『命題コレクション 社会学』──社会学古典の勉強に頼もしい

 

命題コレクション 社会学 (ちくま学芸文庫)

命題コレクション 社会学 (ちくま学芸文庫)

 

社会学部でした。」というと、皆様キョトンとされる。

経済学部、法学部、医学部、農学部、工学部、……シンプルな学部は、そこでどのようなことを勉強したのかが分かるのが良い。文部科学省のお達しで、新しい学校であればあるほど、よくわからない長めの学部が増えてきている。千葉県浦安市にある明海大学には、「ホスピタリティー・ツーリズム学部ホスピタリティー・ツーリズム学科」という名前の学部があるらしい。そういう名前の学部だったらまだ、面食らうというかキョトンとなるのは分かる。ただ、シンプルな癖して中身がスッと入ってこない学部が「社会学部」だ。

高校3年生の受験のときは、「なんか社会に関する学問なんだろうな~」という感覚だった。予想は見事に当たり、マジで「なんか社会に関係することを学問する」のが社会学だ。

おい!そんないい加減なことを言っているとネットヤンキーに絡まれるぞ!と思いながらも、マジなんだから仕方がない。社会学をハチャメチャに研究したわけじゃないから、僕なんかが言っても単なる雑音にしかならんかもしれない。しかし、こんな風に思っているのは僕だけじゃないのだ。

社会学入門本」にカテゴライズされる本の序章には、「いやぁ……社会学とは?って質問されても……うーん、定義とかちょっとよく、はぁい、わっかんないっすね~~」みたいなことが書いてあるからだ。

社会学研究のお供にうってつけの本書、『命題コレクション 社会学』も然り。

 社会学とは何か。その対象の定義はどうなっているかというと、今日でもなお、それは人によって多少とも異なっている。社会関係、社会集団、社会システム、社会構造、社会制度、等々。社会学を学ぼうとする人にとっては、これらの定義を最初に与えられても、何のことだかよくわからない。

書き出しはこれである。この先が心配になってくる。社会学って何!?と答えを急ぐ我々を、どうどうと宥めようとしてくれている。けれども現実は残酷。真理なんてない。たかだか、「社会学とは何か?」という問ごときで大げさかもしれないが、定義絶対決めたいマンとか、ほら、いるじゃん。そういう人には、社会学は向いていないのだ。

なぜ社会学がこれほどまでに漠然としちゃったのか。本書曰く、

それは、社会という言葉が日常語としては多義的なので、この言葉を含む定義からは、社会学のイメージが鮮明に浮かんでこないためである。

そもそも「社会」という言葉が漠然としているからであるという身も蓋もない理由だ。もうこれだけで僕なんかは、だからこそ面白いと思ってしまう。あやふやなグラつく足場の上で、せっせと社会関係、社会集団、社会システム、社会構造、社会制度、等々を研究しているのが社会学者だ。常時アノミー状態かもしれない。それは言い過ぎか。

ところで、哲学とか経済学とか宗教学などにライトな本が多いのに、社会学にはそれほど無いという印象がある。Amazonで「社会学」と検索してみてほしい。ビジネス本界隈から殆ど相手にされていないように見受けられる。

なぜか?それは社会学には「共通言語」がさほど無いからだ。経済学や法学などのように、これさえ覚えとけば社会学の真髄を知ったも同然!というものが無い。数学で言うところの、公理が無い。あったら多分、小室直樹さんあたりがそういう本を書いていそうだけれど、いよいよ書かずしてこの世を去った。(僕が知らないだけの可能性あるから、あったら教えてください)

本書は、社会学的営みをビビットに感じるのにうってつけだ。その命題がどのようなロジックであったかというのを、命題に対する反論なども取り上げながら例示をし、社会学とはどういう学問なのかということを、リアルにイメージしてもらうために書かれている。中にはどうやら社会学じゃないかもしれないというものまであるが、

これら50の命題の中には、社会学の特定の領域にかかわる理論や歴史理論、文化比較の理論も含まれている。これらを除外すれば、社会学の命題集は貧弱な内容なものになってしまう。

と正直に書いてある。なんか、良くない?ますます「じゃあ社会学って何なんだ?」となる。どこからどこまでが社会学なのか。決まってないのも面白い。

文章は古い書籍だけあって、些か硬い印象がある。中級者向けかもしれないけれど、社会学入門本に飽きてきた人(そんなニッチな奴いるのか)とか、社会学に興味ある人、全国の社会学部生は読んでおいて損はない。命題ごとに分けられているので、辞書的に使えるというメリットもある。読んでみると、古典とあなたとの距離が、少しだけ近くなるかもしれない。

 

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