小室直樹『数学嫌いな人のための数学』──数学に興味を持った本
数学が苦手だという記事は、過去何度も書いてきた。ただ、少し勉強してみると、ちょっと面白いかも、みないな気持ちが湧いてくるから不思議です。試験に出てくる計算問題については、やはりてんでダメだが、数学という学問の背景知識は、いくらかストックが蓄えられたように思う。数学に関する本を、ある程度は読めるようになってきたのではないか。
ところで、数字や数式を見れば頭痛・めまい・吐き気が襲ってくる忌まわしい数学アレルギーという持病を抱えていたのだけれど、それを突破するきっかけになった本があり、今でも読み返して面白いなーと思うので、その本について書きたい。
『数学嫌いな人のための数学』という本だ。
著者の小室直樹さんは社会学者として有名。社会学は日本では文系に分類される学問の専門家ということで、本書に対してあまり期待していないという人もいるかもしれないが、彼はバリバリの理系だった。
高校時代は教師よりも数学や物理に明るく、京都大学理学部数学科に進んでいる。大学在学中に読んだ経済学書の理論のエレガントさに惹かれ経済学を学ぶことを選んだという根っからの理系。そんな人が数学嫌いに対して本を書いてくれたのだから、嫌いな人は読んでおいて損はない。
この本はどういう本なのか。タイトルからも予測はできるが、数学嫌いを、数学好きにするための本だ。「はじめに」では、このように書いてある。
日本に数学を復活させるためにはどうしたら良いのか? あなた自身がマセマティシャン(mathematician)になることである。
小室さんによれば、マセマティシャンとは数学者という意味だけではなく、数学好きの人という意味もあるという。
諸科学の根本には、数学的な論理思考が流れていると考える小室さんは、数学を身に着け、少なくとも自由自在に使いこなすことができる人材が増えることがなければ、日本は終わる!ましてや、敗戦状態の日本が、今後アメリカに勝つことなんて出来っこない!と考えていた。*1
日本国民が自在に数学をこなすためにはどうするか?数学を好きになってしまえば良いのだ。そんな小室さんの情熱が伝わってくるかのように、この本に出てくる数学の話は、文系出身の数学オンチな僕にもわかりやすく整理されているし、興味深い。
流れとして、数学と宗教の関係から、数学的な論理の基本である形式論理学について述べ、最終的には、経済学のエッセンスは少しの数学的知識があれば理解できる!と豪語してしまう!というもの。読み進めるほどに小室節が炸裂し、読んでいる方のテンションもあがってくるような、豪快な筆致が特徴的だ。
普通の数学入門本とは違ったところから入り口を開けてくれるのが本書の良い点だと思う。数学入門本の中には、入門本とは名ばかりの、式や問題の解き方が羅列されているようなトラップと思わざるをえない本もある。もちろん、数学の問題を解く能力をアップさせるのであれば、そういう本を手に取ったほうが良い。受験数学などを勉強されたい方は、本書はおすすめできない。
数学そのものに対する興味を持ちたいという人におすすめ。特に宗教的な歴史背景をかじったことのある人には理解しやすい。初っ端の章では「神は存在するのか、しないのか」というテーマと数学を結びつけて論じている。後半は、もともと経済学を勉強していた人からすると当たり前のようなことをフックとして、「どうですか!数学って楽しいでしょう!」と語りかけてくる。
もし数学嫌いなあなたが本書を読んだなら、著者の勢いに圧倒され、読後は数学が好きになる、まではいかないものの、「数学に目を向けること」が染み付くだろう。
ところで、小室さんは似たような本をもう一冊だしている。どれだけ数学好きを増やしたかったのか。こちらは未読なので、読んでみたい。