点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

市川春子『宝石の国』──輝く宝石たちの中にある闇にドハマリする

 

アニメがめちゃくちゃ良かったので、今出ているコミックスを全部読んだ。「この漫画がすごい!2014年」で取り上げられていたみたい。完全に出遅れました。めっちゃ面白い。

遠い未来、かつて「にんげん」が存在していたとされる世界で、28人の宝石たちと、彼らを襲い自分たちの装飾品にしようとする「月人(つきじん)」の戦いを描く。

 

月人は宝石たちを砕き、動かないようにして自分たちの世界に連れ去ろうとする。宝石たちは砕けたとしても、砕けた部分を集めれば再生することができる。宝石たちは月人に連れ去られまいと、宝石を統率する「先生」の指揮下のもと、月人に抵抗する。

主人公は宝石サイドの最年少、フォスフォフィライト(表紙の緑色のキャラクター)。

宝石たちは、月人と格闘できるものもいれば、宝石たちの生活をサポートするような形で能力を発揮するものもいるが、フォスフォフィライトは大変脆く、腕力も無いため武器を扱えず、月人に狙われやすいハッカ色という三重苦。本人は戦闘要員としての活躍を希望しているが、先生や周囲の宝石からも「やめておけ」と言われ参加できずにいた。代わりに医療や服飾、工芸などをさせてみても、ダメダメの不器用で、自他ともに認める役立たず。口先だけは一丁前。そこで先生から、博物誌編纂の仕事を命じられるというのが第1話のあらすじ。

この設定だけでご飯三杯。何やらせてもダメなやつほどノビシロがあるのが漫画のいいとこ。大方の予想通り、最新刊までにはなんやかんやでとんでもない成長具合を見せるのだけど、その成長の仕方がなんとも複雑。読んでみてほしい。

本作の個人的な魅力は、まず戦闘シーン。彼らを粉砕して持ち帰ろうとする月人のデザインは、神々しいが故に禍々しい。怖い。宝石たちに容赦のない猛攻撃を仕掛ける。それを受けた宝石たちは首はもげるわ身体は砕けるわてんやわんや。

砕けたものを集めれさえすれば再生できる、痛んだり苦しんだりする描写はそれほど無い。しかし、壊れてなるものか、攫われてなるものかという緊迫感が伝わってくるので、戦闘シーンを読んでいるあいだ、すごく不安になる。

彼らにとってのゲームオーバーというのは、月人に連れ去られること。体の一部を持っていかれてしまうこともあるし、動きを封じられるような足だったり、武器を使えない手を攻撃されてしまうと、一気に連れ去られる確率がアップする。この時、ギャー!とかやってくれればまだ普通のバトル漫画で良いんだろうけど、宝石の彼らは目がえぐれようが腕がもげようが、戦えるなら戦う。そのときの精神状態なんかを想像してみるのが面白い。

そして宝石たちの会話劇から、彼らの抱える闇がチラチラするあたりもグッド。キャラクターデザイン的には可愛い女の子。でも、戦闘時のバディや、兄弟筋にあたる宝石仲間への執着だったり、自分の存在意義に悩んだりする。果てしなく長い生命(フォスフォフィライトでも300年ほど)を生きているのに、生きることに執着しているように見えるし、指揮役である先生とのあやうい関係性も不気味。

そこに切り込みを入れていく主人公フォスフォフィライトの真っ直ぐな姿勢と、不器用ながらも優しい性格を全力で応援したくなる。激アツです。読んでみて。まだ7巻までしか出てないので、全然追えるよ。