点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

「初学者殺し本」の見分け方

「初学者殺し本」とは

「初学者殺し本」

 本来、初心者を読書ターゲットにしていると想像できる「入門」の名を冠しながら、実際は多量の前提知識が必要であり、とても初学者が読めるようなものではない書籍のこと。個人差アリ。

僕が安直なネーミングセンスをフル動員して名付けた。正直恥ずかしい。

「初学者殺し本」は知的好奇心旺盛の無垢な青少年や、向学心に燃えたビジネスパーソンに、「入門」と謳って擦り寄り、「てめえのようなチョコザイはコレとアレとそれを勉強してから出直しな!バーーーーカ!!」と殴りかかってくる書籍である。

何が入門だ。門前払いも甚だしい。

悪意さえ感じさせる書籍もある。本文中に、「誰向けの本か」というターゲット層についての明記をしていない本などがそれだ。それくらい書いておくれよ。

「入門」と書いてあるので、さぞかし平易な文章で、その分野のあらましを説明してくれるのだろうと期待して購入する。しかし、いつの間にか、本棚の奥深く、あるいは積読コーナーの中の一冊になっている。こういう経験をしたことがある人、結構多いんじゃないかな。

もちろん、世の中には良い「入門書」もある。ではどうすれば見分けることができるのか。

今回は、こうした「初学者殺し本」の見分け方について持論を展開しようと思います。

最近読んだ本で、「これは初学者殺しだな」と思ったのは、『マックス・ヴェーバー入門』です。

マックス・ヴェーバー入門 (岩波新書)

マックス・ヴェーバー入門 (岩波新書)

 

「入門書」を読まずに買うのはおかしい

当たり前のことを書く。

あまりに当たり前なのでくだらないと思う。でも、多くの人はこれを実践しないまま「入門書」に手を出して、失敗する。

今、あなたが買おうとしている入門書が「初学者殺し本」か、そうでないかを推し量るには、「試しに読む」しかない。

あなたにファッションに疎い友人がいたとする。その友人が、洋服を選ぶ時に試着なしで購入し、「ありゃりゃ!つんつるてん!」「しまった!全然似合わない!」などと嘆いていたとしよう。さて、次の機会に失敗しないようにするにはどうすればいいかを教えてあげたい。何と声をかけようか。「次は試着をしろ」が正解であるはずだ。

初学者の状態で入門書選びに失敗しないようにするのも理屈は同じ。「試しに読む」ことが必要だ。

偉い先生が言っていたから購入するとか、アマゾンレビューで高評価だから購入するとか、そういうのは入門書であれば絶対にやらないほうが良い。そういうのを参考にしてクソほど面白くなかったら不幸でしかない。己の未熟さを恥じ、それが原因で好奇心が死ぬ。

入門書は必ずリアル書店で購入することを強くすすめる。

「初学者殺し本」の見分け方

「試しに読む」といっても頭からお尻まですべてを読み通すことなんてやってたら本なんて選べない。ではどこを読めば良いのか。

それは「はじめに」と「目次」だ。

「はじめに」を読む理由は、それは先述の「この本は誰に向けた本か」ということが書いてあることが多いからだ。読み手に対するレベルの要求がしっかりとなされているものは、「初学者殺し本」とはならない。「はじめに」にしっかりと「初学者にも分かりやすいように」とか「前提となる知識についても、注釈で解説をしている」など書いてあったら、第一段階クリア。初学者の我々にも優しい可能性が高くなる。

ところで、「はじめに」は、本選びの中で一番警戒しなければならない部分でもある。

立ち読みをする人に買ってもらいやすいようにする「掴み」だからだ。本文よりも分かりやすく、概要を説明してくれたりするのは、読む人の好奇心をくすぐる仕掛けと思わなければならない。この部分は、本によっては著者と編集者が相当力を入れて推敲しているはずだから、簡単そうだなと騙されては無いように(僕は何十冊単位で騙されています。)

「はじめに」を読むのはあくまで、読者層の設定という「入門書」のマナーを守っているかということを確認するためのものだ。第1章のページを開いて10分後に後悔した、なんてことのないように、「目次」を読む必要がある。

まず目次に、見慣れない単語は無いか確認しよう。人名とか、目新しい概念の名前っぽいものとか、目につくはずだ。目次全体を見渡した時、馴染みが無い単語がどのくらいの割合を占めているのか?ということに注意してみる。その割合が7割を超えていれば、その本は「初学者殺し本」である可能性が高い。(割合については僕の肌感覚による。自由に変えられたし。)

さらに精度をあげるなら、実際に馴染みのない単語の箇所を、目次を使いながら読んでみると良い。そこでチンプンカンプンであれば、「もしかしたら自分にはまだ早いか」と予測を立てよう。

勿論、尻込みしているだけでは、読書はひどくつまらないものになる。わかりきったものを何度も再確認して「俺は読書家だぜ!ゲヘヘ~~」と悦に浸るのは自慰読書に他ならない。自慰読書を否定するわけではないが、それが嫌ならどんどん書籍のレベルを上げるべきだ。

この記事は、あくまでも初学者の状態でモチベーションを維持するにはどうしたら良いのかということを考えた内容であるということを、ここで念押ししておく。

ダメそうならば「門前書」を選ぶ

宮崎哲弥さんの『新書365冊』という書籍に、「門前書」という言葉が出てくる。門前書というのは、入門以前のレベルで、その分野についてより平易に解説されている本のことだ。会計学における『さおだけ屋はなぜ潰れないか』とか、経営学における『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら 』などがコレに当たる。

知的プライドが高い人ほど、キャッチーなベストセラーは読みたくないという心理状態になりやすい。しかも頭のいい人が書く所謂「読書本」は、門前書なんて読まないで良いという態度を取ったりもするから、そういうのから影響を受けちゃったりしているとなおさらまずい。

しかし、「はじめに」や「目次」を読んで、堂々と、悔いなく、門前払いに甘んじる──「門前払われ」──をした我々に残されているのは、もはや門前書しかない。より平易な表現で、要所要所を荒削りながらも書いてくれているのが門前書である。頭のいい人からすると「悪書」と見えるだけで、初学者にとっては宝の山の可能性が高い。凡人である我々は、まず門前書を足がかりにすることから始めよう。

門前書は知的好奇心を育むが、しっかりとした知識が身につくかというのは、やっぱり怪しい。あなたが博覧強記を目指すなら、これをブースターとして、再度入門本の目次を目にしてみるといいかもしれない。前提となる知識が蓄えられているので、初見の時に感じたモヤモヤは、ある程度晴れているはず。門前書と入門本の往復によって、入門資格が得られるまで気長にやってみると、ある時ズルズルズルっと入門から免許皆伝に至ることなどもあるから、読書は楽しい。

入門資格とか免許皆伝とか書いたけど、どのレベルが入門資格ありか、免許皆伝か、ということも自分で設定できるのが、一人でする読書の良いところなんすよね。

新書365冊 (朝日新書)

新書365冊 (朝日新書)

 

楽しく読めるか

一番重要なのは楽しく読めているかということだ。この場合の楽しくというのは、何もウキウキワクワクの精神状態で読める本であるか、というわけではない。多少理解ができなくても、読んでいて面白い本というのはあるものです。

それを手っ取り早く確認できるのは、やっぱりリアル書店での試し読みだ。この本はダメだと思ったら他の本、というようにスムーズに比べることができるから、何か新しい分野を勉強したいのならリアル書店に行ったほうが絶対に良い。ネットで済まして後悔する前に、本屋にいってしまおう。

他人から勧められた本も、一度読んでみるということをしたほうが、お金も勿体なくない。図書館という手もあるけど。

ほんとうの意味での「初学者殺し本」は、殺されっぱなしになってもいいや、と思ってしまった本だ。そういう本を見分けるために、「はじめに」と「目次」は最低限確認しておくと、自分にとっての「初学者殺し本」にぶち当たることも少なくなる。

これが、全く興味のない分野などであれば、「ジャケ買い」とか「帯買い」といった遊びもできますが、今回の記事は、あくまでも勉強したい分野があって、初学者として読書するモチベーションを失わないための一つの僕なりのライフハックとして捉えてくだされば幸いです。

おしまい。

 

 

僕的に大丈夫だった「門前書」

人文科学系は、日本術業出版社から出ている『本当にわかる○○学』シリーズはおすすめ。目次を読んでみてほしい。本のどこに、どういうことが書いてあるのか?ということが、自分の理解度で一発で分かる本は、門前書としてベスト。

本当にわかる宗教学

本当にわかる宗教学

 
本当にわかる哲学

本当にわかる哲学

 
本当にわかる倫理学

本当にわかる倫理学

 

理系で最近読んだ本の中でめちゃめちゃ楽しかったのは、瀬山 士郎さんの『読む数学記号』

数学コンプレックスは、数学記号コンプレックスであることが多い。楽譜は音符や記号が読めなければ、音楽として形にできない。数式も、アラビア数字以外の記号について知らなければ、どのように処理するのか思考できない。直接的な数学再入門の本では無いけれど、まず面白かった。

社会科学系では、経済学なら『落ちこぼれでもわかる』シリーズ。

落ちこぼれでもわかるマクロ経済学の本―初心者のための入門書の入門

落ちこぼれでもわかるマクロ経済学の本―初心者のための入門書の入門

 
落ちこぼれでもわかるミクロ経済学の本―初心者のための入門書の入門

落ちこぼれでもわかるミクロ経済学の本―初心者のための入門書の入門

 

結構前の本だけど最近知った。マンキュー経済学入門が家にあるけど、こっち先に読めばよかった。初学者の天敵は「好奇心が死ぬ」ことなので、楽しく読める本を自分でこさえることが重要かと思われます。これは僕的には分かりやすく読めたので、個人的にはいい本だと思う。