点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

ライト書評 『ボランティアという病』『術語集』『世界史とヨーロッパ』

ボランティアという病 (宝島社新書)

ボランティアという病 (宝島社新書)

 

押し付けがましい善意によって地獄を見る人がいる。ボランティアはかねてより、「善意の押しつけ」「自己満足」という負の部分が抜けないカルチャーだ。本書はボランティアによる「やらかし」の実態を書いている。被災地のニーズを性格に把握しきれず、あるいは踏みにじり、自分たちがやりたいことを、災害支援という大義名分によってやってしまう困った団体、困った人物がいるのも事実なのである。。

キャッチーなタイトルにキャッチーな文章、TwitterFacebookで見たことをそのまま書いている箇所があるなどの粗が目立つので、ボランティアに関する問題を調べようとしたときに賛否両論ある本書をあてにするのは、あまりよろしく無いかもしれない。ただ、こういう意見もあるんだなあと参考にはなる。防災プロに、本書についての意見を聞いてみたい。

術語集―気になることば (岩波新書)

術語集―気になることば (岩波新書)

 

さらりと読んで感想を書くものではない本というものがあって、本書はそういう類の本だ。少なくとも一回読んで語るべき本ではない。しかしピエール・バイヤールも言うとおり、「読めた」という状態というのは曖昧である。いつまでも読めない読めないでは一生読めない。そういう本こそえいや!と書いてしまうべきだ。

本書は現代思想のキーワードについての短評を纏めたものだ。人文書であり、エッセイでもある。のっぺりとした哲学書とは違い、解説文にも潤いがあって、難しい話をされているはずなのに、簡単に思えるのがフシギだ。こういう本を読んでしまうと、さも賢くなったかのように錯覚するが、そこは要注意である。

アランの『定義集』に着想を得て、本書のような「私家版用語集」を世に出した著者は、あとがきにて「自分の頭の<大掃除>をした思いがした」と述べている。なるほど、整理方法には、こうしたのもあるのかと、この心意気に惚れ、自分でも「気になることば」を集め、自分の言葉で短評を書くということをブログとかでやりたくなった。試しに本書の1番最初の単語、「アイデンティティ」で一筆書いてやろうかとメモ帳を開くと共に、頭が真っ白になった。自分の浅はかな世界の認識、つまりは言葉の認識の仕方に、絶望した。

世界史とヨーロッパ (講談社現代新書)

世界史とヨーロッパ (講談社現代新書)

 

 完全無欠の「客観性」というのは存在しない。それは歴史も同じ。書き手によって、事実の見え方は変わり、書き手の持つ思想や信条によって表現は異なってくる。歴史はつまらない、と考えている人は、この点に歴史=退屈という方程式を崩す糸口があるように思う。

本書を読めば、世界史がヨーロッパ文化の中でように書き換えられていったのか?ということを知ることができる。時代時代において、ヨーロッパの人々がどのような世界観からどのような歴史を綴ったかを知るのは、案外楽しかった。

最近の歴史の楽しみ方として、無味乾燥な文章による歴史知識の詰め込みよりも、遠回りでもいいので、本書のような歴史そのものの発生過程を知るとか、史実とされる知識にプラスアルファで書き手の主張が見えやすい本を選ぶのが良いのかもしれないと思い始めている。その理由は単純で、面白いからだ。

特に時間の捉え方の変化の仕方は、読んでいて楽しい。古代ギリシアの円環的な時間認識の世界から、中世ではキリスト教的世界観に移り変わり、時間は一定方向に進むベクトル的なものになる。そこから宗教改革がおこり、それまでのカトリック的な時間観念に対する反発や、大航海時代によって世界の認識の仕方がガラリと変わる。科学革命が起きれば、時間とはなにかという命題はさまざまな科学的視座に晒され、特にニュートンによる絶対的時間のアイディアに注目があつまった。

歴史は、そうした時間的認識の違いを抜きにして語れない部分がある。歴史学の古典を読むとき、その当時の時間というものへの考え方、歴史というものへの考え方を知っているのと知らないのとでは、いかに著者の視点に立てるかということが重要になる読書という営みにおいて、理解に大きく差が出るはずだ。西欧人の古典のお勉強に、必ずプラスになる。