点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

『マインド・コントロール 増補改訂版』──洗脳から身を護るという視点

ブラック企業に洗脳されていた状態から脱出するきっかけのひとつ

 もし、あなたの身の回りにマインド・コントロール状態かもしれないという人がいたら、読んで欲しい一冊。僕は2016年8月まで、ブラック企業に洗脳されていた。交際している彼女の協力によって目を覚まし、脱出の決意をした。大体はこの彼女の力による脱出であったが、その他のきっかけとして、この『マインド・コントロール』という本との出会いも大きかった。多くの人から「お前の会社はおかしい」といわれ、もしやと思いこの本を購入。ここに書いてある洗脳のモデルが、会社から強いられていた状況と、まさしくドンピシャリであったのだ。

マインド・コントロールの原理と応用

本書で書かれるマインド・コントロールの真髄は次の5つである。悪用厳禁。自分が置かれている状況がこの5つに近い場合、極めて注意が必要だ。ちなみに洗脳下の僕は全てに当てはまる状態であった。

  1. 情報入力を制限する、または過剰にする。
  2. 脳を慢性疲労状態に置き、考える余力を奪う
  3. 確信を持って救済や不朽の意味を約束する
  4. 人は愛されることを望み、裏切られることを恐れる
  5. 自己判断を許さず、依存状態に置き続ける

 それぞれ本書を基本にしながら要約する。

 第1の原理脳に対して入ってくる情報を制限すると、人々は情報に飢える。外界からの情報を遮断することで、その後にやってくるわずかな情報に敏感に反応するようになる。被洗脳者が主体的にその情報を選び取るというプロセスを生みやすい。新しい行動パターンや思考パターンを植え付けるのに使われる。反対に、情報を過剰に入力すると、主体性が失われる。人間は多くの情報に触れると、脳みそがオーバーフローを起こす。そこで、さらに情報を与えてやることで、不安や苦痛を高めつつ、脳を疲れさせ、正常な判断力を失わせるのである。

 第2の原理は第1の原理の効果効能を強化させるために行われる。被洗脳者に対して過度なストレスを加える。不眠状態にしたり、低栄養状態にさせる。なんのためにこんなことをするのかというと、脳内伝達物質の分泌を阻害させ、さらに判断能力を奪うためである。すると、洗脳者側に都合の良い意見をのませやすくなる。入眠中の睡眠を妨害するというわかりやすい方法だけではなく、自己啓発セミナーや真理探求のための活動を朝から深夜まで行うことによって、気づかぬうちに疲労困憊状態にさせていくという手段を取ることもできる。

 この下準備を整えた上で、第3の原理だ。被洗脳者に対して、救済措置を与える。もしくは、被洗脳者の常識を覆すような、世界平和などの普遍的価値観を与えてやる。人格攻撃などをこれまでのプロセスで行っているとなお良い。自分は間違っており、真理はここにあるということを、確信を持って信じてくれるようになるからである。被洗脳者を時限爆弾にしてテロリズム活動をすることだってできてしまう。

 第4の原理は、人間の社会的な性質を逆手に取ることで成立する。ずばり承認欲求を上手く使う。人は裏切りを恐れる。裏を返せば、優しくされると裏切れなくなる。自己啓発セミナーのワーク、宗教の儀式的なものとして、構成員同士に愛情の言葉を投げかけてあげたり、俗世と隔離された場所で共同生活をさせたりする手法がある。こうすることで、絆や連帯感が生み出される。指導者に対して認められたいという構成員の競争意識も芽生える。そのような集団や組織の中から抜けるのは、「裏切り」のように思えて、なかなか決断に至らない。組織化された人間ほど、そこからの脱退、脱出には相当な意志力を必要とする。これにより、なかなか抜け出せない状態を作ることができる。

 第1から第4の原理は、悪用しようとすれば危険だが、善用すれば組織や個人の成長につながる。第5の原理によって、悪しきマインド・コントロールなのか否かという部分が大きく分かれる。行動、解釈、選択や判断を個人に委ねるか、委ねないかという点だ。委ねないのであれば、悪しきマインド・コントロールである。

 僕の場合はこうだ。

 頻繁に社長によって全社員が集められ、その場で長時間・深夜に渡る説教や即答不可能な課題を与えられる。その後、自己啓発上のドグマに従うことによってそれらの問題が解決されるという救済案が説かれる。社員は失敗しても「お前らしくない」と互いを鼓舞し合うように教育されていた。それについて反論や意見をすると、その一言で3時間ほど反論をされるので、行動や解釈を社長の仰せのままに選択する方が楽だということで、見事に洗脳された。いまさら会社に対して責任を押し付けようとは思っていない。食いつぶされそうになった自分も半分悪いと思っている。

 この記事を読んでくれている人の中にも、故意か偶然かはさておき、このような状態に陥っている人はいないか。とくに家庭環境。親子関係では、無自覚的に洗脳状態と呼びうる状況になりやすい。上の5項目、特に第5の原理に敏感になることで、思考の手綱を他人へ譲渡してしまうことが無いようにすることが寛容である。

 本書では、依存的な性格であり、高い被暗示性を持ち、バランスの悪い自己愛や過度なストレスや葛藤などを抱えている状態で、そういう人を支える基盤が悪いと、洗脳状態に持っていかれやすいということも書かれている。詳細は本書に譲るが、自覚のある人は確認してみて欲しい。

検証不十分な分野でもある

 マインド・コントロールに関しては信頼のおける参考文献が非常に少ないという。著者は医学博士であり、大阪でクリニックを開業している精神科医でもある。その視点からみて信頼足りうると判断されたのは、邦訳されている書籍約10冊と、海外の書籍や論文、公開文章となっているMKウルトラ計画などの資料によるもので、日本語しか読めない一般読者は内容の査定をすることは困難だ。ネットや他の書籍を検索をしても情報として出てこないことも書かれているので、すべてを鵜呑みにするのは危険かもしれないが、そうした欠点を補うほどの価値が本書にはある。

 本書の優れた点は、マインド・コントロールを警戒すべき社会現象として捉え、その存在の啓発を行うことによって、僕らに予防策を提案してくれるところにある。人はなぜマインド・コントロールに陥るのか、マインド・コントロールに陥りやすい性格とは、マインド・コントロールからの脱出方法はあるのか、という問いに一定の解を提示していくれている。

 誰かに操作されているかもしれないと思った人は、一読をオススメしたい。

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