点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

『知の編集術』/松岡正剛

知の編集術 (講談社現代新書)

知の編集術 (講談社現代新書)

 

 「知の○○」という題名の本に、あまり当たりは無い。これは文庫-LOGの『9冊目「知の教室」/佐藤優』でも書いた。僕はハウツー系の書籍を「うんちく型」と「視点型」というものに分類する。基本的に「うんちく型」に当たりは無い。雑学を詰め込まれて終了。「視点型」は著者が普段どのようにして情報を整理しているのかという思考法・発想法をそのまま書いているもので、こっちのほうが役に立つことが多い。

 で、この松岡正剛氏の『知の編集術』は「視点型」である。松岡氏といえば読書家の権化、知の巨人なんて言われる人で、読書ブログ『松岡正剛の千夜千冊』を運営する作家だ。彼は「編集工学」という独自の哲学を持ち、情報を「編集」することに命をかけてきた男である。

 松岡氏が「編集」という時は、新聞記者や映像作家、雑誌編集者が行う、一般的に「編集」と呼ばれる行為よりも広い意味で使われる。本書で松岡氏は、世に出回るあらゆる情報は、既に誰かが編集した情報であると語る。言われてみれば確かにそうで、報道される情報、SNSでシェアされる情報、絵画や音楽、文学などの芸術も、アーティスト・作家によって、脳の中にある情報が組み合わさってできたものである。本書序盤にはドラマチックに、我々は「編集世界」の中に居るのだというメッセージもあって、読むものをワクワクさせる。

 編集工学的な意味での「編集」とは、インプットとアウトプットの間で起きる人間の認識・意識・思考や判断の動きや営みそのものを指すという。この「編集工学」という考え方は松岡氏によって体系化されており、その仕組みを使って創造力を拡張することができるという。が、なかなか回りくどく説明していると思われる箇所や、途中本当に効果あるのかっていうエクササイズなんかも書いてあるため、なかなか真意を汲み取るのが難しい本だと思う。

 平易に説明してしまえば、普段我々は無意識のうちに「編集」をしており、わざわざそこに目を向けてみると面白いことが分かりましたよ、という本だ。認知科学領域がここのあたりの専売特許かと思いきや、それに臆せず、人間の情報処理の体系的なしくみを考案してみるというところに、松岡氏の面白さを感じる。

 人間の認識や認知というのは、宗教・哲学・心理学・社会学脳科学認知科学などが拓いてきた。もちろんその分野の知識も援用しつつ、「編集」を64の技法にまとめている。しかしこれらは普段我々がやっていることであって、なんら難しいことではないのだというメッセージもある。だから君たちも編集しようぜ。情報をいじって遊ぶのってめちゃくちゃ面白いぜ!という情報の認識の仕方と操作の自由さを教えてくれる一冊である。帯には「使いこなすノウハウ」と書いてあるけど、どちらかと言うと、「遊び倒すノウハウ」に近い気もする。

 本書は「クソ読書」をしている僕の強い味方である。まずは点在する情報について知り、それを繋ぎ合わせたり、あるいは注目する箇所を変えたりすることで、面白いアイディアや創造物ができるかもしれないよ、という。そもそも我々は情報を言語に置き換えるとき、抽象・具象・捨象という概念を、無意識のうちに組み合わせて情報交換をしていく。これも松岡氏からすれば言語のアウトプットまでの間に「編集」が行われているということになるんだろうな。

 ではこの方法論を習得したからといって、どこまでのレベルで新しい創造物を作り上げることができるかという点については未知数である。もう少し調べれば、編集工学マスターによる論文なり作品なりが出てくると思うんだけど、ピンとくるものがなかったので、読者ご自身でお調べいただければと思う。

 連想ゲームや要約が苦手な僕は、本書の第3章は大いに参考にしたい。編集工学に傾倒する気はないけどね笑 調べたら、なんかちょっとハードルが高そうだったし。クソ読書が限界。