点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

スマホは玄関においてから寝る──アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』を読んで

引くほど睡眠改善した

スマホ脳』という書籍を読んで、自分のスクリーンタイムを見たところ、休日に18時間とか使っていることが判明した。ちょっとやばいと思ったので、「寝る部屋にスマホを置くべからず」という書籍からのアドバイスを実行した。電源を切った状態で(重要)玄関に置くことにしたのだ。

スマホ脳(新潮新書)

スマホ脳(新潮新書)

 

すると、驚くほど睡眠が改善した。具体的に言えば、実践してからというもの、23時には眠り、6時30分には目覚ましもなく起床するという具合だ。

人生でもこれほどに眠れている経験は少なく、ちょっと驚いている。もちろん、睡眠薬というチートを使っているので、100%自力ではないのだけれど、この生活習慣の変化は、もしかすると寛解への大きな一歩になるやもしれぬとテンションが上がっている。

めちゃ売れている『スマホ脳』

スマホ脳』の内容を簡単にいうと、スマートフォンタブレット、PCなどの「スクリーン」類は、うつ、不眠症、記憶力や集中力の低下を引き起こしており、これらを節制しなければメンタルヘルスや日常生活に多大な支障をきたすという警告の書である。

特にこれらのテクノロジーSNSの融合は、我々の報酬系にガンガンにはたらきかけて依存状態を作り出すことに成功している。

その改善が一筋縄ではいかないのは、狩猟民族時代の脳からほとんど進化をしていない我々の脳は、ギャンブル的な”期待”が大好きだからだ。「あそこに獲物、食べ物があるかもしれない」という期待が原動力にならなければ、人類は淘汰され今日まで残らなかったであろう。

また原始的なコミュニティにおいては、そのコミュニティから嫌われることや、悪いやつのそばにいることは、直接的な死を意味した。著者によると、狩猟民族時代の死因の1割は他殺であったという。

そのため、集団に迎合したり、悪い噂を気にすることは、食べ物がどこにあるかという情報と同じレベルで重要だった。その名残によって、自分を集団の一員として認めてもらうために様々なことをSNSで発信したり、自分には全然関係ない芸能人のゴシップからネットユーザーの悪行といった情報に興味をもったりしてしまう。寝る間も惜しんでSNSに励む人がいるのはその為だ。

こうした認知の特徴は狩猟時代には生きることに必要であったが、スマホが普及するような現代的な先進国では少々不利に働く。ヒトは合理的判断が苦手な生物であるが、合理的判断をする人間が生産性の高い人員として評価される社会となった。こうした人間本来の認知システムと社会システムの乖離が、健康的な生活の阻害要因となっていると著者のアンディシュ・ハンセンは主張する。

スマホ脳』の疑問点

 

著者のアンディシュ・ハンセンはスウェーデン精神科医だ。新潮新書のサイトを読むと、「名門カロリンスカ医科大学で医学を学び、ストックホルム商科大学でMBA経営学修士)を取得」とある。華々しすぎるくらいの経歴だ。

訳者あとがきを読むと、前著『一流の頭脳』が売れに売れ、メディアに引っ張りだこになり、冠番組まで持つようになったという。日本でいうと、茂木健一郎氏やDaiGo氏のような、脳科学や精神科学のジャーナリスト的な役割を果たしつつ、2000本くらい医療記事を書いているらしい。

正直この訳者あとがきによって、この著者とは距離を取るべしという認識になってしまった。確かに経歴や業績を読んでみるとモノスゴイのだけれど、ヨイショがすぎる。訳者はこの書籍を「人生のバイブルにしている」と訳者あとがきに書いており、そこまで言われると引いてしまう。

バイブルにするには早すぎる。もしかしたら原著にはあるのかもしれないが、この新潮新書版は一般科学書であってもかなり重要になる参考文献が無い。

本文を読んでも大学名や研究機関名、学者の名前が省略される形でデータが示されることがある。それと著者の進化心理学的解釈が入り混じっているためか、どこまでが先行研究で、どこからが著者の新しい視点であるのか分かりにくい。

原題も『SKARMHJARNAN(スクリーン脳)』という具合で、売出し方が邦題の『スマホ脳』と大差無いように見えるのも、自己啓発書アレルギー気味な僕としてはちょっと引っかかるポイントだ。

本当に日本の出版社に言いたいのは、まじで「科学的な」とか言うなら参考文献を付けてくれということ。せっかく面白いことが書いてあるのに、面白いだけになってしまう。裏を取るのに猛烈な時間がかかるので、とても不親切だ。原著がそこらへんをおざなりにしているのであれば話は別だが、翻訳書になったとたん参考文献がどこかに吹っ飛ぶという例は、ダニエル・ギルバート『明日の幸せを科学する』(早川書房)などにも見られるので、お願いだからそういうことはやめてほしい。

明日の幸せを科学する

明日の幸せを科学する

 

スクリーンタイム見てみ

イチャモンを付けたが読んで良かった本ではある。なぜかというとスクリーンタイムをしっかりと意識するきっかけになったからだ。スクリーンタイムは簡単にいうと、スマホをどれだけ使ったのかを一望できるアプリケーションの総称で、iPhoneには標準装備だ。

高校生は1日7~8時間ほど使っているらしい。果たしてあなたは何時間使っているか。確認すると、自分が思っている以上にスマホを使っていることに衝撃を受けると思う。1回10~15分を何度も重ねることによって、1日に何時間も使っている計算になる。

音楽やYouTubeなど垂れ流しにしたりしているとスクリーンタイムはどんどんかさんでいくが、マルチタスクで仕事をしていないか、どれだけ自分がスマホに依存した生活を送っているのかということを確認をするいい機会になるだろうから、ぜひ皆さん今一度、スマホの使い方の見直しを。

スマホ中毒者より。

ADHDや「自分の不器用さ」に悩むあなたに寄り添う『発達障害サバイバルガイド』

CAUTION

この書籍に習って注意書きを書いておく。

あなたが発達障害の二次障害で、うつの底にいる場合、あなたがやることは「ただ休む」「横になる」ことである。ただ布団に寝そべりうつの底をやりすごすのは厳しいことだが、我々が抱える病の力はそれほどに恐ろしいものである。

それしかやれることが無いということは、裏を返せば、やるべきことをやっているのだ。

さらなる悪化を防ぐためにも、この書評にしては長たらしい記事すら読まず、ひらすらに休んでほしい。すこし元気を取り戻したら、紹介するこの本や、それを紹介しているこの記事を読んでみてほしい。

己を変えるのではなく外部要因を変えよ

僕は病気になってから、「できること」と「できないこと」を明確にしてこなかったように思う。「あれもだめだ」「これもだめだ」というやるせない無力感は、「過剰な一般化」思考という、うつ時の特徴的な認知バイアスであり、過度なストレスを生む。これを明確化することで、多少心にゆとりができるのではないか。

これは『発達障害サバイバルガイド』を読んで気がついたことだ。

本書は主に発達障害を抱えている人に向けて書かれているが、医師から発達障害の診断を受けていない、あるいは自分はグレーゾーンかもしれない、自分の不器用さに悩んでいるという人にも役に立つことが書かれている。

己を変えるのではなく、己が生きやすいように環境を整備せよ。

これがこの書籍のメッセージの核だ。

サバイバルとはよりラクに、より快適に、より優雅に生きられる環境を自ら作り上げていくことであると、本書では定めています。(P.10)

僕のライフハックのテーマは「自分を変える」のではなく、「やり方を変える」「環境を変える」「道具を変える」など、パーソナリティの外部にあるものを工夫することで変化を起こすことをモットーにしています。本書も、その考えを貫いて書かせていただきました。(P.314) 

自己啓発書は基本的に、ハード面である認知能力の欠損を問題にしない。もっぱらソフト面である心理状態の変革と、それに伴った行動をすることをお題目に掲げている。

しかし、心理状態とは認知能力に大きく影響を受けており、明確に切り分けることは困難だ。それをまったく別問題として取り上げる通俗脳科学的な書籍が世にあふれるさなか、自己改造ではなく具体的な環境整備の方向性を示す本書は、凡百なビジネス本にはない魅力を持っている。

本書の構成は大きく分けると8つに分けられる。

  1. 生活環境 サバイバルに絶対必須の設備ハック
  2. お金 貧困と借金から学んだマネーハック
  3. 習慣 くりかえしが苦手な僕らの365日ハック
  4. 在宅ワーク だらだらにかつ自宅作業ハック
  5. 服 おしゃれとか以前の身だしなみハック
  6. 食事 ズボラ完全対応版自炊ハック
  7. 休息 生き延びるための休日ハック
  8. うつ 不安とともに生きる再起ハック 

すべてを取り上げると記事として膨大になるし、著作権的にもアレなので、僕が特に参考になった第3章と第8章を中心に書いていきたい。

一元化、常時一覧化、省エネ

第3章は、忘れっぽく先延ばしがちな人間が使えるタスク管理に関するアイディアが詰まっている。”Hack11 「1日1箱」で習慣を固定化しよう”では、「エブリデイボックス」というアイディアを紹介している。

……小さな習慣を固定化していくのは案外簡単なことではありません。僕も気がついたらサプリメントを1週間飲み忘れていたり、もう20日も事務に通っていなかったりします。最後に参考書を開いたのはいつだったか思い出せないなんて、人生には本当によくあることですよね。

そこで、僕がおすすめしたいライフハックが「エブリデイボックス」です。これは、毎日の習慣のために必要なアテムを、ひとつの箱に入れておくというもの。(P.93)

このアイディアは、著者が服薬の習慣化を達成するために、バラバラに保管してあったうつ病の薬やサプリメントを一箇所にすべてまとめることにしたことが発端だという。次第にその日にやるべきことをすべて1つの箱の中に集めることで、日常生活において重要な事柄の忘却を、大幅に減らすことに成功したらしい。

著者は、「やるべきことに取り掛かる際」に、次のようなことを重視する。

  • 「一元化」(一箇所に集約する)、
  • 「常時一覧化」(常にやるべきことを目に入れられるようセットする)、
  • 「省エネ」(行動を起こす際の意志力を節約する)

「エブリデイボックス」は、この3要素をすべて達成できるような仕組みの1つだ。

こうした一元化のアイディアは、いまや整理法の種本として使われている、経済学者の野口悠紀雄が書いた『「超」整理法―情報検索と発想の新システム』などに見られる。

分類や整理というのは効率が良いように思える。だが実際は、分類や整理をする工程に時間が取られるし、作り上げたシステムで5年10年と分類が守られることは稀だ。しまいには「その他」が膨れ上がる。という具合に、とてもハードルが高いく、しっかりと検索性を考慮に入れないで仕組みを作ると大変な目に合う。

収納美の高さがあっても実用的でなければほとんど意味が無いのであれば、せっかくこさえた整理のシステムも錆びつく。多少のごちゃつきは犠牲にして、利便性と快適さを取るべきである。

僕は今の所、重要書類を「エブリデイボックス」のように整理している。重要書類ボックスを見れば、大雑多にクリアファイルで分けた重要書類たちが入っている。ここに入っていなければ確実に捨てているので、ない場合は書類の内容を問い合わせたり、再度送ってもらうという次の一手を即座に取ることが可能だ。

という感じで、一元化に対する抵抗感はさしてなかったので、まだ実践はしていないが、毎日、あるいは高頻度で生活に必要なものを一箇所に入れるための箱を近日中に注文するつもりだ。

「不得手」と「不可能」の洗い出し

発達障害には二次障害としてうつや双極性障害を患う方々がいる。著者自身もこの病に苦しみながら日々生活している。

著者の立場は「病と付き合う」であり、完治への甘い希望を捨てている。それはたとえ完治しても、「もしあのときのような不安感情の津波に襲われたら、という不安」に襲われるだろうと予期するからだという。

そこで著者は、うつや双極性障害などは、ほぼ一生モノと割り切る。だからといって「死ねばいいや」という麻薬めいた思考にとらわれてはいけない。この思考に慣れれば破滅的な未来が待ち受けている。ここはぐっとこらえて、頭が働くうちに、以下のような自己分析をすることを勧めている。

”Hack43 「向いていない仕事」を徹底的に避ける”では、せめて

  • 何が苦手であるか
  • 何が努力して克服できることか

これを洗い出しておこうと書いている。一度失敗した人間は、「何が向いていなかったのか」がわかるというアドバンテージがある。

僕の場合、広告代理店の営業で失敗し、携帯キャリアショップの店舗スタッフで失敗した経験から、営業は完全に向いていないことが分かった。

嘘と真の狭間であると分かっている情報を利用して、情報を持っていない人間に対して仕掛け、それで金を得るのは良心が痛む。

これは努力して心を鬼にし、「しっかりと契約書を読まなかった客が悪い」と思えば解決できるのだが、逆立ちしても思えそうにない。メリットもデメリットもどちらも同等に伝えた上で買ってくれるスキルを磨くセンスも無かったので、これはもう諦める。

また、失敗することによって「店」という大きなものに対する迷惑を与えたくないという思いがとても強く出てしまう。自責の念はチームで働く環境であればあるほどキツいので、ミスを個人の責任でカバーできる仕事を選んだほうが良いということになるのだろうか。

この自己分析の結果を満たす仕事なんかあるのか分からないけれど、とにかく自分が仕事を再度探すときの条件を絞れる材料にすることはできそうだ。

すべて真似をすることは無い

この本に出てくるテクニックの中には、「食洗機を買う」とか「カレンダー専用のタブレットを購入する」とか「食料品はすべてAmazonパントリーで揃える」などのテクニックが出てくる。

これらは、ADHDを抱える著者が考え抜いたライフハックであるが、著者も言うとおり、すべて真似をしなければならない事はない。金銭的事情や、ネットショッピングへの抵抗感などによって、実行不可能なものもあると思う。

核となるメッセージは、冒頭でものべたように「己を変えるのではなく、己が生きやすいように環境を整備せよ」であるから、それを指針として、自分の環境を自分なりに見直してみるといい。

実際僕はそうやって生活の仕方を見直した結果、QOLがある程度向上したと思う。だから参考にしなかったテクニックもある。そこは個々人の取捨選択によるので、気張って読む必要はない。

あまりイメージがわかないので具体例がほしいとか、アイディアに至るまでの他人の思考回路を覗き見したいとか、そういうことなら本書を読んでみて、実践するのが良いかもしれない。