凄味の達人 平沢進
凄味
すご‐み【▽凄み】
①すごい様子。すごい感じ。 「 -のある顔」
②相手をおどすような態度や文句。 「 -をきかせる」
(大辞林 第三版より)
小説家の筒井康隆さんが昨年、「創作の極意と掟」というエッセイを出された。
創作歴60年の大作家はその著作において、「凄味」と題された章を「序言」の次に置いた。その中に、こんなことが書いてある。
プロの作家ともなれば、技巧によって凄味を出したりもする。(中略)
理解不能な人物を登場させたり、舞台設定をあやふやにしたり、登場人物の心に存在する闇の部分をほのめかしたり、作者であることの優位性を利用して必要なことを読者に教えなかったり、ここから先は作者にしかわからないのだということを強調したり、つまりはその作品世界の「底の知れなさ」を読者に感じさせるのである。
筒井さんはこの著作の「序言」に、「創作」は小説に限るとことわりを入れているが、僕はこの一文を見た時、音楽で「凄味」を出している人をふと思い出した。
それは僕が高校生の時に、テクノ界隈を物色していた時に見つけた、平沢進さんというアーティストである。
Susumu Hirasawa - Byakkoya - Live Phonon 2550 ...
「あ、またか。」と思う人はここら辺でさようなら。
興味をもった人は続きを読むからどうぞ。
平沢進(ひらさわすすむ)って誰
ジャッキー・チェンと同い年の平沢進さんは36年前の1979年に
テクノ・ポップバンド「P-MODEL」のリーダーとしてメジャー・デビューした方。
現在はメジャーレコード会社との契約を打ち切って、自身のインディーズレーベルで活動をしている。
詳しい経歴はWikipediaにお任せしよう。
凄味1:音楽性の広さ
CM音楽やサウンドロゴ、映画やアニメのサウンド・トラックを手がけた音楽経験から、特にP-MODELからソロ活動に移行した頃から幅広い音楽性を持つようになる。Wikipediaのジャンルを列挙すると、
ポストパンク/ニュー・ウェイヴ
エレクトロニカ/アンビエント
プログレッシブ・ロック/シンフォニック・ロック(マンドレイク、ソロ以降)
テクノポップ(初期P-MODEL)
ワールドミュージック・ニューエイジ・ミュージック(ソロ以降)
サイケデリック・ミュージック
といった具合。
基本的に電子音やサンプリングといったコンピュータを使った音楽が得意な方。
でも色んなジャンルに手を染めているので、入り口がどこにでもあるといえば……あるかもしれない。ちょっと個性的すぎて無理かもと思う人も絶対いるからなんとも言えない。
凄味2:声
王道楽土 Royal Road Paradise - YouTube
年齢を感じさせない変幻自在の声。
ハイトーンな地声でのボーカルと、カウンターテナーばりのファルセットを巧みに使い分ける歌唱力には「凄味」を感じざるを得ない。ライブで歌うのムリだろうと思うようなボーカルラインもCDと遜色ない再現度で歌い上げる。
凄味3:歌詞
ちょっとだけ歌詞を見てみよう。
ハイホー いきり立つ風を背に受け
ハイホー 遠くまで歌声を投げ
空の隅で夜に仕えた
つるはしを振り下ろし 夜通しで橋を架け
ハイホー 遠くまでこの声を投げ
橋大工 Susumu Hirasawa - Hashi Daiku - YouTube
作品全体を通して抽象的な言葉が多い。さらに古風な言い回しや難しい日本語、英語やロシア語、そしてタイ語、様々な文化圏の宗教的用語が織り込まれており、読解は困難を極める。
おそらく歌詞の意味は平沢さんにしか分からない。筒井さんの言い方を借りるならば、「作品世界の『底の知れなさ』」は随一だと思う。
凄味4:インタラクティブ・ライブ
平沢さんのお家芸に、「インタラクティブ・ライブ」というライブ形態がある。
これはオーディエンスの反応や、ライブに来ていない遠隔地にいるファンをも巻き込み、その反応次第でライブ進行が変化するというライブである。
ノモノスとイミューム-Susumu Hirasawa Interactive Live 2013
この動画の1:30あたり、運動会の大玉ころがしのようなシーンがある。
これは分岐地点のシーンである。ステージから会場後方へと伸びる2本レーザーに大玉を当て、レーザーのあたった回数が多かった進路へとストーリーが進行するという仕組みである。過去のインタラクティブライブでは、観客の歓声の大きさで左右を判断したりしていた。
基本的にインタラクティブ・ライブはストーリーがあり、平沢若しくは作品内の主人公をグッドエンドへ導くという目的が存在する。このストーリーの世界観やライブ進行方法は真似しようがない。
終わりに
打ち込みのオケ、演奏するのもギターとキーボードだけで、ロックバンドのようなライブ感は無いかもしれない。だがそのパフォーマンスは圧倒的なオーラと凄味によって、説得力がある。おそらくこれが20代の若者が、同じだけの技術があってもこのような説得力は生み出せない。
「何言ってるか分からないけど、何だかいい歌にきこえる」だとか
「ギター弾いている以外何しているか分からないけど、カッコイイ」など思うのは、彼の凄味にやられている可能性がある。
パフォーマンスの高さ、メジャーレーベルとの契約をぶっちぎって来たパンクな姿勢、自作楽器やインタラクティブライブなど、独自の実験的な視点を持ち、世界観を構築するDIY精神によって、彼の凄味が出ているのだと思う。
平沢師匠、これからも応援しております。
P-MODELも凄味あるから同時におすすめであります。
平沢進公式サイト
NO ROOM - The official site of Susumu Hirasawa (P-MODEL)
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