点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

ビギナーによるゴジラ、シン・ゴジラの感想

※当記事ではシン・ゴジラについて多分なネタバレを含んでおります※

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(画像は公式サイトより)

シン・ゴジラゴジラの順番に鑑賞

Twitterを連日賑わせていたシン・ゴジラですが、私もその熱気にあてられて鑑賞してしまいました。評論家の岡田斗司夫さんによると、「映画としては64点、怪獣映画としては95点、エヴァ映画として120点」という評価がされているそうです。こういう評価軸を複数設けるというのが面白いなと思いました。映画としては64点って、個人的には低評価な気がします。凄いですよシン・ゴジラ

VFXをバリバリ使うようなジャンルの日本の映画作品の中で最高傑作と行っても過言ではないのでは?というくらい映像が良かったです。登場人物の殆どがお役人で、ストーリーも会議室で展開されていくのですが、「こういう役人いそうだな~」という範囲を絶妙に守りながら、しっかりとカッコいいと思える演技をする役者さんの表現力と演出力は、純粋に凄いと思いました。

進撃の巨人』や『テラ・フォーマーズ』という、色んな意味で日本映画史に名を残した作品を多く夜に出している樋口真嗣監督と、前作が『キューティーハニー』という実写映画で、あんまりな出来栄えに実写映画は苦手なイメージのあった庵野秀明監督がタッグを組むというので、正直全然期待出来ておりませんでしたが、本当にごめんなさい。日本映画の可能性を切り開いた作品であると言っても過言では無いと思います。

平成生まれのゴジラ観を覆す

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(画像はWikipediaより)

実はゴジラをろくに見たことがありませんでした。1992年生まれの私世代によるゴジラの印象は「子ども向けの怪獣映画」という一言で括られるでしょう。無理もありません。『とっとこハム太郎』と同時上映されていたコンテンツだったのです。「特撮」というジャンルも子ども向け作品に多いジャンルでしたし、『ウルトラマンティガ』『ウルトラマンダイナ』世代でもあったので、周囲の友達はどちらかというとゴジラよりもウルトラマンに傾倒しておりました。

そんなこんなで20年余、ゴジラはノーマークだった訳ですが、中学2年生の時に『新世紀エヴァンゲリオン』の世界観にどっぷりハマってしまった人間でもありましたから、庵野監督が『ゴジラ』をやると聞いて一発で興味をそそられました。

何しろ「シン・エヴァンゲリオン」の続報を今か今かと待ち望んでいる状態でした。庵野ゴジラのタイトルが公表されるとそこには「シン」の文字が。この文字を冠したゴジラが公開されるということで、僕の中では「ゴジラ興味無いけど観なきゃな」となってしまいました。

庵野監督が『巨神兵東京に現わる』で魅せた、最新技術による特撮映像もエヴァを鑑賞していれば有無を言わさず観せられる訳ですから、あのクオリティであれば見るぜ!という心理状態にもさせられました。事前情報の多くにまんまと引っかかり、映画館に足を運んだのです。

映画を観終わった後、自分はゴジラファンになっておりました。子ども向けコンテンツだなんてとんでもない。完全にゴジラという存在をナメてかかっておりました。

ということで、Huluのゴジラキャンペーンにあやかって数本を鑑賞。今回はゴジラビギナーであるAchelouが、シン・ゴジラに多大な影響を与えた初代ゴジラシン・ゴジラを比較して、偉そうに感想を書きたいと思います。

ものすごく強く、ありえないほど怖い

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(画像は公式サイトより)

岡田斗司夫さんがいうところの「シン・ゴジラは怪獣映画としては95点」という評価ですが、初代ゴジラを含めた作品を複数鑑賞した結果、とても腑に落ちました。初代ゴジラは圧倒的に強く、殆ど無敵状態で、街を完膚なきまでに壊滅させる存在でありますが、続くゴジラの逆襲という映画から、「別の怪獣と戦う」というプロットがそれ以降のゴジラの定番になります。ゴジラと別の怪獣とのバトルがメインなのです。ゴジラが悪で最強の状態の映画は非常に少ない!

初代ゴジラシン・ゴジラも、ゴジラが非常に強く、既存の人間の技術ではまるで歯が立ちません。自衛隊が使用する武器の威力や作戦の規模も段々と上がってくるのですが、それでもまるで無傷。この絶望感たるや、見ていてため息しか出ません。そして怖いのです。

武器のグレードが上がれば致命傷とまでは行かないまでも、ちょっとは怯んだりしてくれてもいいのに全然ダメージを受けない。こうしたゴジラに対する武器使用のシーンは、「我々人間がどういう存在を相手にしているのか」ということを強烈に印象付ける力があります。シン・ゴジラの場合は「戦後初の武力使用」ということが政府関係者間のやり取りの中で実現していく過程が描かれており、これがまた、まだ武器を使っていないのに猛烈に緊張感が高まるのです。こんなに重要なことが今から起きます!というのは本当に怖い。

また、会議室シーンが殆どというのもゴジラが本当にヤバイ存在であることを印象づけるのです。政府関係者がどんなに対応を急いでも官僚制による文書主義の制約でスムーズに行動できないという焦りを感じるシーンや、未曾有の危機故に政府のトップですらどうすればいいか分からん!という状態で切羽詰まった人間がああでもない、こうでもないと取り乱すシーンを見るにつけ、強烈にゴジラが意識に上がります。

特に冒頭の方、進化前の四つん這いゴジラが実際に街を破壊する現場の様子は、会議室に移されているテレビのシーンと、会議室シーンの場面転換の間に映される数秒~数分間です。この時に感じた恐怖を、僕は3.11発生時に体験しています。僕は福島の津波の映像を見たのが弟が入院している病院でした。家までは自転車で30分間ほどありました。大通りは帰宅難民に溢れていたので小道を縫うようにして帰宅する道すがら、「今現場はどうなっているのか」という恐怖で頭が一杯でした。ゴジラ映画の冒頭は、あの震災発生時の時に感じた恐怖を思い出します。

核や放射能を通して何かを我々に語りかける「ゴジラ

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初代ゴジラシン・ゴジラも、「核の技術」という角度からメッセージを提示しています。特に初代ゴジラはバリバリの反核兵器のメッセージが込められている映画である印象を受けました。初代ゴジラ第五福竜丸事件が社会問題になっていた頃の作品ですし、戦後からまだ10年も経っていませんでした。原爆の後遺症に苦しむ人が多く存命だった頃に公開された作品です。水爆実験によって住処を失った巨大生物が地上に降り立ったという設定になっていますが、その巨大生物を「オキシジェン・デストロイヤー」という原水爆に匹敵する超破壊兵器で殺すという手段を取る皮肉めいたゴジラの最期と人間の行動や、作中の生物学者山根博士の「あのゴジラが最後の一匹とは思えない。もし水爆実験が続けて行われるとしたら、あのゴジラの同類がまた世界のどこかへ現れてくるかもしれない」というセリフで締めくくられるという内容から、核の技術と人間の身勝手さに対する批判的なメッセージが込められた作品であると断定して良いでしょう。

シン・ゴジラ核兵器放射能といったものを扱っています。ゴジラは海底に極秘に捨てられた汚染廃棄物が発する放射能によって突然変異した生物であるとされ、そうした存在が人間を襲うという点では初代ゴジラのような反核、反放射能のメッセージが入っているとすることもできそうですが、放射能核兵器という存在は初代ゴジラと比べると舞台装置的になっているような印象があります。シン・ゴジラのシーンの殆どは会議室です。役人のドラマです。街を破壊しつくされ阿鼻叫喚する住民たちのドラマではありません。ゴジラという想定外の災害に見舞われたとき、日本政府はどうするのか?というIfを提示することによって、もしかしたら福島第一原発事故の時の日本政府の対応を批判しているのかもしれません。放射能や核という存在よりも、人間が問題にぶち当たっととき、どんな風に困難を乗り越えるのかということを、できるだけフィクション性を排して描き切った作品だと感じました。ん?在来線爆弾?知らんなあ…。

そしてゴジラの絶対強者感。ゴジラシン・ゴジラも街をあっという間に火の海にする恐怖の存在として描かれています。先程も書きましたが、シン・ゴジラ出現時のシーンは震災発生時のときに感じた恐怖感を思い出さずにはいられませんでした。きっとゴジラ公開当時に見た人は戦争を思い出さずにはいられなかったでしょう。シン・ゴジラが公開した2016年現在、震災の起きた地域の復興は完了したとは言えません。今でも約2万人ほどが仮設住宅で暮らし、福島原発一帯は立ち入りが困難です。震災は現在も続いているのです。この事実をゴジラで思い出すことになりました。

シン・ゴジラ主人公の矢口は、自らの政治生命を絶つ、自らの命を絶つ覚悟で様々な行動をし、見事ゴジラを凍結させることに成功しました。シン・ゴジラは矢口の「辞める訳にはいかない」というセリフで終わります。放射能を発しながら街を破壊する存在の動きを沈静化してもなお、やるべきことがある。土壇場を切り抜けたストーリーのその後はどうなるのか?ということを考えることは、震災後の日本をどうするのか?ということを考えるいい機会になりそうです。

初代ゴジラシン・ゴジラが提示するメッセージは本当に多様です。いろんなことを考えさせてくれます。ゴジラファンであっても、これが正解だ!とか軽々しく言えないセンシティブな核や放射能というものを扱っている作品です。単なる娯楽に終わらず、様々なものに目を向けるきっかけを与えてくれるような作品になっています。そういう意味で、初代ゴジラシン・ゴジラの2作品は子ども向け映画ではありません。大人も観ておくべき作品であると強く感じます。まだ観ていない人は、ぜひどちらも鑑賞してみてください。

 

ゴジラ

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ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ

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シン・ゴジラ音楽集

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