点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

『千夜千冊エディション 本から本へ』──レビューからにじむレビュアーの思想を味わう

1冊の本について語る、ブックレビューを作るというのは難しいというイメージがあるが、それは誤解だ。

ある程度の型を決めれば、それほど難しいことではない。どういう本か?どういう場面が面白かったのか?なぜその部分が面白いと思ったのか?著者は何者か?という一連の情報を理路整然と組み立てることができれば、とりあえず「読める書評」は完成する。書評の作り方とか、書き方とかは、一般的な文章作成の手引き書(『理科系の作文技術』とか)書評サイトHONZ代表で、今ではビジネス本作家として売れっ子の成毛眞氏の書評の型を参考にすれば良し。

Achelouはずいぶん大それた事を言うなと思うかもしれないが、そんなことはない。「それほど難しいことではない」というのは想像よりもハードルは低いという意味だ。簡単に質の高いブックレビューが一瞬で書けるようになる、という無責任なことは書いていない。現に僕は、型にはめるだけで毎回ヒイヒイ言いながら文章をこさえている。まったく説得力のあったものではないが、一応、それでも、日常の出来事を面白くエッセーにまとめるよりは、簡単かと思う。本を媒介にして自分の考えを主張できたりもするので、ブックレビューは文章を書き慣れていない人からすると、実に良い練習になるんじゃないか。とってもブログ向きのコンテンツだと思う。

ところで、「面白いブックレビューを書く」というのであれば、これは簡単なことではない。先程までの話とは別だ。全くの別。面白いブックレビューを書ける型とか方法とか、そういうのは存在しない。あったら教えてくれ。僕もそういうの書きたい書けるようになりたい。

文章の面白さは、書き手の鍛錬度合いやセンスに依ってしまう。型を守ることに終わらず、書き手固有の魅力がにじみ出ている文章は、書評だろうが、そうでなかろうが面白い。ブックレビューは本の紹介に務めるべきだとする声もあるけれど、本の紹介だけだとなんだか味気ない気もする。

だから、僕にとって『千夜千冊』の松岡正剛氏によるブックレビューは面白い。

「本について語る」という行為自体をどのように捉えているかで、松岡氏の文章は好き嫌いが分かれる。松岡氏のブックレビューは本の概要紹介にとどまらない。まさしくその本についての松岡氏の所感を綴ったものであるから、取り上げた本と関連する別の本の話や著者の話、著者が影響を受けた思想から松岡氏の体験記まで、様々な情報が渦を巻いて眼前に現れる。本文中で使われている言葉の偏差値が高くて、一見混沌としているように見える場合もあるが、そこから松岡氏の考えやら思想やらが垣間見えたり、読み取るのが面白い。

千夜千冊は、セイゴオおすすめの本を紹介してもらうために読むのではない。読書と編集工学で形作られた松岡正剛というフレームを通すと、この本はこのように理解できるという捉え方を楽しむために読むものだ。少なくとも、僕はそんなふうに楽しんでいる。偏見を捉えてそれを味わう。ブックレビューであっても普通の書物を読むときと同じような楽しみ方ができるのは本当に凄い。

この本はブログ『千夜千冊』のダイジェスト版なので、本の内容に関しては全部ネットで確認することができる。テーマごとによりすぐりの記事を取り上げたこちらの本の方が、効率よく松岡正剛に触れることができるけど、失敗したくないという人は、こちらから千夜千冊へアクセスしてどうぞ。

松岡正剛の千夜千冊