点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

「賢者のプロペラで偏頭痛が治った」という情報への個人的意見

『賢者のプロペラ』が頭痛に効く?

 尊敬する音楽家平沢進氏がまたもや話題になっている。アングラな世界で音楽を発表していた平沢氏がいきなりフジロックに出演することでも話題になったけれど、今度は少し毛色が違うみたい。

 平沢氏が2000年に発表した『賢者のプロペラ』という楽曲が、頭痛にてきめんの効くということでバズっている。

 僕個人としても、好きな音楽を聞くと頭痛が治るというのは体験したことがある。さらに言えば、この『賢者のプロペラ』で頭痛が治ったこともある。ファンなので、この意見を支持しようかな、と思ったが、ちょっと思いとどまった。

 僕は医者ではない。頭痛持ちではあるものの、頭痛の知識は非常に浅い。さらには音楽の専門家でも、音楽療法士でも無い。だからこれから申し上げるのは、超シロウトの超個人的意見なのでお手柔らかにお願いします。

頭痛を医者に頼らずやり過ごすリスク

 この記事で何を伝えたいかというと、「民間療法的な形で盛り上がり過ぎて怖い」ということ。どうして怖いのかというと、民間療法的なものは、その他の手段を選択する目を曇らせることに繋がるから。

 もっといい治療法があるかもしれない、あるいはその治療法が正しいか正しくないかも分からないのに継続することによって病状が悪化するかもしれない。そういう意味では薬による副作用よりも、リスクが高い場合もあると思うのよ(よほど異常な痛みやふらつきがある場合は、音楽なんて聴く前に病院行くとは思うけどね)。

 頭痛というのは通常、血管の拡張、筋肉のこわばり、脳腫瘍、脳内炎症、神経痛、頭痛を誘発する食品など、原因が多岐にわたる。つまり、単なる頭痛、いつもの頭痛とナメていると、重大な病気のサインを見逃してしまうかもしれない。命にかかわるものもある。

 「素人判断で頭痛をやり過ごす」というのは非常に危険じゃないかと思う。頭痛で悩んでいるならとりあえず病院行こうぜ。『賢者のプロペラ』聞きながらでもいいから。

 最終的にどの治療法を選ぶかに関しては、それぞれ自己責任だから、西洋的でも東洋的でもなんでも好きな対処法を取ればいい。それこそ『賢者のプロペラ』でも良い。プラシーボでもなんでもいいから、つらい頭痛を治せればそれで良い。そう考える人もいると思う。それでいいならそれでいい。僕に否定できる権利は無い。その人の人生だもの。

効けばよかろうのリスク

 ただ僕は、プラシーボでも効けばよかろうという考えには危険が伴うと考えている。

 それは僕が代替医療解剖』という本を読んだからだ。

 この本は鍼、カイロプラクティックホメオパシー、ハーブ療法などを、西洋医学の視点から批判した本だ。この本の主張のひとつに「プラシーボ効果程度しか認められていない治療法への信奉は、本当に効果のある、他の治療を選ぶ目を曇らせる」というものがある。西洋医学に偏った内容の本ではあるが、これは「病気をどのように治療するか」という課題への重要な視点になるんじゃないかな。

 たった一つの治療法にこだわるのではなく、同時に他の治療法や対処法に対してもオープンな状態にしておくことは、病気を治療するときには重要だと思う。効き目の再現性という点については、西洋医学に軍配が上がる気がしないでもないけれど。

代替医療解剖 (新潮文庫)

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『賢プロ』よりも「生活習慣の見直し」のほうが優先度は高い

 また、対処療法の情報が流行すると、そもそもの話・根本的な部分に目を向けることの妨げにもなりかねない。

 病気になった人の当面のゴールは「寛解」あるいは「完治」だ。頭痛の場合だったら、頭痛が起きない生活が理想のはず。頭痛の原因が病気ならそれを治療する、生活習慣が原因ならそれを正すというのが、優先順位として先にくるべきだ。

 睡眠不足だったり、デスクワークで固まった身体をほぐさなかったり、しっかりとした休養が取れなかったり、運動不足だったり、うつ病の人であれば医者の言う通りに薬を飲まなかったり、チョコレートバクバク食べたり、コーヒー飲みすぎたり、などなど……頭痛の原因はそうした生活習慣と関連している。

 病気を治さずに、生活習慣も正さずに、頭痛が起きたら頭痛薬飲めば良いとか、『賢者のプロペラ』聴けばいいでしょとか、そういう逆転した考えで頭痛に対処するのは危ないんじゃないの?

 もちろん、いくら治療しても治らない、原因が分からない頭痛を持っている人もたくさんいるだろう。そういう人に対して、こんな厳しいことは言えない。良き医師に相談して、その指示に従ってくださいな……グッドラック……としか言えない。無責任かもしれないが。

平沢氏は「ミュージシャン」として広まって欲しい

 『賢者のプロペラ』はいい曲だからみんなに聴いて欲しい。これをきっかけに平沢氏のファンが増えることは嬉しい。ただ、頭痛に対する効果があるという情報とセットで魅力を感じてしまうのは、上のような理由からなんだか複雑なんだよな。

 平沢氏自身は、音楽におけるヒーリング効果は結果論に依るところが大きいと発言している。自分の音楽に、頭痛を直したり、DNAを回復させたりといった効果があると思っているような、アヤシイ人物ではない(別の意味でアヤシイところはたくさんあるが、それも氏の魅力だ)。

 『賢者のプロペラ』によって、頭痛をおさめる効果は保証できないけど、平沢氏の放つ荘厳な摩訶不思議ワールドにトリップできることは保証する。おすすめ。

賢者のプロペラ

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