点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

『ひそねとまそたん』

2018年公開。シン・ゴジラ庵野秀明監督のバディを務めた、樋口真嗣監督による自衛隊ドラゴンファンタジー。ネットレビューを読むと賛否両論。ちょっとネガティブな意見が散見される作品なのだけど、個人的にはこのアニメ、とても面白かったです。

あらすじ

思っていることがすべて口から出てきてしまうため、人との交流がうまく行かない、甘粕ひそねが主人公。航空自衛隊岐阜基地に配属され、上司からのお使いを頼まれたひそねは、目的地の格納庫でドラゴンに遭遇。丸呑みにされるも無事に生還し、意識を取り戻したベットの上で、そのドラゴンを操るパイロット(Dパイ)候補生になることを知らされる。

ドラゴンは、変態飛翔生体 (OTF)と呼ばれる。古来より、これを保有する国は栄えると言われており、その時々の為政者によってあらゆるものに擬態されていた。舞台となる現代日本においては、飛行する特性を阻害しないように、軍用機に擬態するようになっている。

今までの人生で、アイデンティティの核となるものを見つけられなかったひそねは、このドラゴンと心を交わし、訓練を重ねる中で、自分にとって「大切なもの」を作り、発見していく。

まそたんが可愛い

 OTFの搭乗には、体液で溶かされないように、特殊なスーツを着用の上で、丸呑みされる必要があるという、一部の人達が色めきだつ設定だ。ひそねは幾度目かのOTF搭乗の際に、F-15J体内に文字盤を発見する。そこから文字を読み取り、「まそたん」と命名

物語の中盤、航空自衛隊が所有するOTFが、まそたんの他に3体登場するのだけれど、どいつもこいつも可愛い。コミカルな動きでパイロットに懐いたり、OTF同士で遊んだりといったシーンもあり、ここだけ切り取れば、所謂「日常系アニメ」の雰囲気がある。

しかしこのOTF、我々人間にとっては、なかなかにえげつない設定を持っているキャラクターであり、その真相が明らかにされた途端、このドラゴン達に対する視線が変わっていくことは間違いない。強大な力を持つ知性を操るには、代償が必要である。

そんなOTFの声、実は今をときめく人気講釈師、6代目神田伯山(当時の神田松之丞)と後で知って驚いた。加工されているとはいえ、さすが伯山先生と、全然アニメと関係ない所で感動してしまった。

批判に対する僕個人の見方

このアニメに対して批判の的になる部分について書いておきたい。具体的には批判に対する僕なりの反論だ。ネタバレチックなのでダメな人は読み飛ばしてほしい。

自己中なキャラ

このアニメに出てくるキャラクター、特にDパイのキャラである、甘粕ひそね、星野絵瑠(ほしの える)、絹番莉々子(きぬつがい りりこ)、日登美真弓(ひとみ まゆみ)は、行動原理が非常に個人的で、感情的で、成人済みの社会人設定であるにも関わらず、大人になりきれていない部分が漏れ漏れだ。個人的にめちゃくちゃ共感できるセリフ言ってくれたりするので、僕はDパイの面々は好きなんだけれども。

ただ、イライラしたり、ムカついたりする要素があるということは同意する。でもそれは、このアニメの質を落とす部分にはならないと考える。

人は、生まれや組織、もっと大きな社会の中で生きていくうちに、自分の本心や感情が麻痺していく。そこと折り合いがつかない人間は、社会や組織の本流から外される。主人公たちは、本流から外された側の人間である。なぜそう言えるかというと、Dパイの設定にある。

Dパイは誰でもなれるわけではない。「ドラゴン、OTFに心的依存をしている人間」であればあるほど、OTFを自在に操れるのである。主人公を含むパイロット候補生は、社会に承認されることを拒まれた経験を持つ。だが、OTFに承認されることを経験し、そこに喜びを感じた。それがキッカケとなり、ようやく組織内でポジションを獲得する。しかもDパイは後半に出てくる約1名を除いて社会経験も浅く、不安定な存在である。

この設定を見逃し、視聴者が好みで「こいつらムカつく」と断定することは非常に勿体ない。この物語は、承認に難があった人間が、ドラゴンからの承認をきっかけに、それぞれのペースで成長する過程を描いていると思う。

彼女たちは、シンジくんでは無い。

セクハラ・ミソジニスティックな描写

セクハラや女性軽視。現実世界において、僕はこれらの行為は撲滅されるべきものであると思うが、この作品の場合、世界観の説明や、主人公たちが乗り越えるべき壁という描写として、どうしても必要であったと思う。

主人公たちが置かれている環境は自衛隊だ。残念ながら、現実の自衛隊では男性自衛官によるセクハラ報道は多い。女性たちが活躍する場所として、不平等な環境であることが伺える。*1*2もしここを舞台として女性たちが活躍するというフィクション作品を描くという段になったら、主人公たちを阻む障害として、セクハラや女性軽視体質な職場環境というものが出てきても、なんら不思議ではないと考える。話の構造として、それらを乗り越え、自分たちの責務を果たすために邁進するというものである。セクハラをテーマにした作品でも無いので、「自衛隊のセクハラが主人公の活躍により無くなりました」という場面は必要無いと考える。仕掛けてくる人物たちは、基本的に主人公と対立する立場として描かれているしね。

恋愛への過大干渉

恋愛への過大な干渉というのは、OTFの設定に関わる部分だ。OTFパイロットは、OTFへの依存が適性の条件となる。一度OTFとの信頼関係が出来上がった後に、心の拠り所がOTF以外に移ると、OTFは取り込んだパイロットを体内で消化しようとする(吻合-ふんごう)。

これを防ぐために自衛隊上層部は、Dパイには一度恋愛を経験させ、それを完膚なきまでに叩き潰すことで、OTFへの心的依存をより深めるという鬼畜の所業に出る。

この設定自体に問題があるという指摘があるが、そうとは思えない。主人公がこの問題を解決するからだ。

物語終盤、ひそねは小此木榛人(おこのぎはると)という整備士に好意を持ってしまったがゆえに、まそたんがひそねを受け付けなくなってしまう。

しかし彼女は、小此木への恋愛感情を維持しながらも、「あらゆる成長へのきっかけを与えてくれたまそたんこそ、一番大事な存在である」ということをまそたんに伝え、まそたんがこれを受け入れたことにより、この問題を克服している。

承認をめぐる物語においては、バランスの良い依存関係の構築というひとつの成長ポイントに到達したということで、不必要な設定では無かったと思う。

総評

劇伴も好みだし、太い線で描かれるキャラクターたちも面白い。実際の軍用機に擬態するドラゴンも格好いいし、現代社会でも見たくないような、様々な困難を乗り越えるストーリー構造も見ていて楽しかった。中盤までは主人公の煮え切らないうえに憎たらしい言葉遣いによってヤキモキさせられるかもしれないが、全体を通してみると、いい12話だったと思える作品だとオススメできる。

が、自分は上に挙げたような描写に敏感だという人には、オススメはしない。