点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

哲学読み直し

「落ち込んでも本だけは読める」というフェーズに到達した。もちろん理解度や進行度は、通常時よりも劣るが、しかし本が構築する世界に気をそらすことができるので、安易な落ち込みや希死念慮に陥ることを防ぐことができるフェーズだ。

現在、図書館で気になった本を取り寄せ読みすすめるのと同時に、人文書をより読みやすくするため、哲学の通史を総ざらいするということをしている。自分が持っている資料だとPHP文庫で復刊された『世界十五大哲学』と、ちくま新書のシリーズ『世界哲学史』しか通史理解を手助けしてくれるものがないので、これをド頭から書き込み入れて読んでいる。

うろ覚えになっている部分がかなり多く、これを頭に入れるにはかなりの時間が必要だが、薄く広く情報を入れておくことで、思想書を読みすすめる手助けになると信じて、遠回りかもしれないが読んでいる。

『世界十五大哲学』は学生時代、佐藤優『読書の技法』で知ってから何度か読んでいるが、まるで頭に入っておらず絶望した。大まかな流れすらも記憶の彼方にあったので、通史部分を何周かする予定だ。

記憶の技法は長い歴史の中で多く編み出されてきたが、個人的な経験から言うと、小テスト方式および薄い再読の繰り返しが性に合っていると考えているので、非効率的だろうがなんだろうが、そのようにして覚えようと思っている。小テストにはAnkiを使っている。便利。

『世界哲学史』は野心的なシリーズで、通常の哲学史と異なる。西洋中心主義的な哲学史の視点を、世界的な規模で捉えようとするものだ。この「世界哲学」という理念は、かつてカール・ヤスパースが提唱しているが、西洋で生まれ育ったヤスパース自身の仕事ぶりも西洋中心主義が根強く残り、本書では批判的な視点で受け止められている。

良いところは通説と現在議論されている説を両方とも載せてくれていることが多い点と、ざっくりとわかりやすい表現で哲学の思想を解説してくれているところ。

もちろんこのシリーズを一読しただけで思想の蘊奥を会得しようとも思っていない。ではなぜこれを読むかというと、「思想書を解説してくれる入門書」からの門前払いを防ぐためだ。どの分野にも入門書が存在するが、哲学や思想を扱う書籍は、「入門」と書いてあっても、その思想や哲学者を語る上で必要な前提知識が必要であることが多い。いちいちネットで検索する手間を省くために、ここはひとつ本腰を入れて頭に叩き込んでしまおうという魂胆だ。

読むにつけ、哲学で食っている人や専門でやっている人は、つくづく大変だ思う。果たして生きていく上で役に立つのか立たないのか、分からない分野であり、大抵の場合役に立たないと判を捺されがちだ。過去の先人たちは、どうして考えても仕方がない(と思われる)問題に取り組めるのだろうと驚きながら読み進めている。これは貶している訳ではない。彼らがいてくれたおかげで、普遍的な価値観の問題や、物事の根源的な問題に対して、頭の足りない僕のような人間も、少なからずの興味を持つことができる。

僕はそうした問題を一線で思考し続けている人間を尊敬する。僕はそのおこぼれをもらうために、いやしくも思想哲学をちょっと舐めるために、彼らの言っていることを理解するために、なんとかして豊かな世界へアクセスできないかということを、あろうことか趣味というカテゴリーにおいて実現しようとしている。おそらく、どこかで足元をすくわれるだろうが、先人の知恵を読むことが、今は楽しくて仕方ない。