点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

アニメ『Sonny Boy』が面白い

完結してから3回くらいゆっくりと見返して、それでも真意や意味、メッセージを読み解けなさそうな難解さを持っている作品が、『Sonny Boy』だ。2021年夏アニメなので、この記事を書いている間は完結していない。現在9話まで視聴。だからこのタイミングで語れることは少ない。

ストーリーの中身ではなく、個人的に気に入っている箇所をピックアップして書いてみたい。

アニメーター夏目真悟氏による脚本・原作で、アニメオリジナル作品。ただ全くのオリジナルというわけではない。モチーフは梅津和夫先生の『漂流教室』だ。

 

家族や周囲と距離を取り、冷めた中学3年生の男子・長良(ながら)は、夏休みの半ばを超えた8月16日、クラスメイトの生徒36人と共に、学校ごと異世界に飛ばされてしまう。

飛ばされた先では、生徒たちは固有の超能力に目覚め、それを使い無能力の生徒を従えるもの、暴れまわるもの、悠々自適に生活するものなど、様々な生活を送っているが、次第に「元の世界への帰還」を目標に行動するようになる。

TV ANIMATION「Sonny Boy」soundtrack

TV ANIMATION「Sonny Boy」soundtrack

  • アーティスト:VARIOUS
  • フライングドッグ
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漂流教室』は残酷な異世界の中で、小学生たちの知恵と実力で危機に対処していくという物語だったが、『Sonny Boy』はそこに学園SFライトノベル的に超能力が加わることで、超常的かつナンセンスな様相を呈する世界に対して、主人公たちが自分たちの持つ能力を駆使し、パズル的に謎を解明していくという点で、話の構築のされ方が大きく異る。

この世界での漂流者は不死でもあるため、中学生にしては肝のすわった大人顔負けの行動に出たり、有事でない限りは呑気にそこでの暮らしぶりを楽しんだりするような描写なども存在する。そのため、『漂流教室』のような、いつどこから怪物が襲ってきて、誰が無残な殺され方をするのかというスリリングな空気感はほとんど無い。

その代わり、生徒同士の団結・協力・分断・決別といった中での、人間関係のいざこざに焦点が当たる。能力を持つもの、持たざるものが存在することによって、先鋭化された能力主義が発生し、権力構造が生まれ、クラスメイト同士の精神的な(ときには肉体的な)衝突が繰り返される。

主人公の長良の能力が発覚したことを皮切りに、そうした描写が多くなる。そこからは、長良個人の葛藤の物語であり、成長の物語でもある。

ベルリンからの帰国子女であるヒロインの希(のぞみ)は、役割としては『新世紀エヴァンゲリオン』のシンジにとってのアスカのようなポジションだ。レイのようでもあるか?アスカのようにツンケンと尻を叩き、イニシアチブを取りながら殻を破らせようとするのではない。自らの強い意思に従って行動し、クラスで浮き気味になった長良とも対等にコミュニケーションを取る。自分の信念を曲げずにふるまう希の様子を見て、長良の内面は徐々に外側へと開かれていく。

長良らが漂流した世界の謎は、彼らとともに視聴者である僕らを混乱させる。この世界が何のためにあるものなのか、世界がどのように動いているのかという謎は、頭脳明晰な少年・ラジダニによって仮説が立てられていく。

一緒に謎解きをする臨場感と共に、仮説検証がことごとく壁にぶつかることによって、無事に帰還できるのかという、もったりとした恐怖感を、その度に味わうことになる。

残虐な場面は無いので、グロを警戒している人は心配ゼロで見てほしい。それよりも、能力を手にしてしまった中学生たち一人ひとりの暴走や、同調圧力による思い込みの怖さ、無能力と判断された人間の虚しさといった、人間の負の感情の描写を、大げさになりすぎず、かといって平坦でもない、絶妙な描き方で演出しているところは、とても好みだ。

特徴的だなと思うのは、それほど音楽を多用せず、キャラの動きや表情、刻々と変わる世界というギミックを使って、心理状態や状況を説明しようとしているところ。キャラクターのセリフや画そのものに集中できるので、これもとても好き。

個人的に好きなキャラクターは瑞穂(みずほ)。もうひとりのヒロイン。長良同様冷めた価値観で周囲とのコミュニケーションから閉ざされており、男勝りで、可愛げのないキャラクターだが、ここぞという時に熱いセリフや、長良との友情を感じさせる動きを見せる。ギャップってのは、いつの時代も強いのさ。

残り数話。毎週楽しみだ。Amazon Primeで配信中。