世の中には、現実社会の現象に紐付けて、特定の作品の名前をぽんと出す本当の読書人が居る。自分はそういう人間にはなれそうもない。本を読んでは忘れる人間だから。
本を読んでいればいつしかそういう能力が身につくかもしれないと思っていたが、僕の脳はその機能を未実装のままで、この先もアップデートの見込みが立たない。
そういえばここ1年ほど、小説を読んでいないことに気がついた。そろそろ読まなくては。一応読書を趣味にしている人間としては、小説もノンフィクションも、バランス良く読みたいというツマラナイ見栄が生まれてくるものなのだ。
見栄だけはいっちょ前に張りたいと思ったときに思い出した。
僕には、良い小説は無かろうかと友人知人に尋ねるだけ尋ねて、まったく手をつけていない「他人から薦められた本リスト」があることを。
Google Keepを開く。希死念慮のはけ口ノート、買い物メモ、地獄ポエム、ブログの下書きなどをかき分けて、リストのひとつを見つけた。
見てみると、故・小林泰三の作品のタイトルがずらっと書いてある。
思い出した。このリストは小林泰三ファンに懇切丁寧な作品解説を頂いたときに書いたものだった。だがその熱量が高すぎて僕の耳は煙を吹き、「あ、ありがとう。読んでみるよ」という気を使う余裕ゼロの情けないギブアップ宣言により、会話を強制終了をさせた記憶がある。
『アリス殺し』『ドロシイ殺し』『クララ殺し』『ティンカーベル殺し』『殺人鬼にまつわる備忘録』などがリストアップされているが、正直なところどんな風におすすめされたのかとか、教えてもらったはずのそれぞれのあらすじとか、全く覚えていない。ごめんな。
そんな知人の熱量を受け入れることが難しかったことが伺えるリストの中に、なぜか一冊だけ梨木香歩『西の魔女が死んだ』がリストアップされていた。すでに読んだことがあるのに、どういうわけかこの作品がこのメモに入っている。小林ファンの知人ではなく、そのとき一緒にいた友人が挙げてくれた作品だと思う。
多分、次に読む小説は、二度目の『西の魔女が死んだ』になる。人間は選択肢を与えすぎると動かなくなってしまうことを身を以て体験した。
あれもこれもおすすめ!全部良いよ!と言われるのは、僕のような優柔不断人間には疲れる。ついでに言うと、社会心理学的にもよろしくない決断の迫り方なのだ。知ってか知らずか、友人は『西の魔女が死んだ』のみをそっとおすすめしてくれた。小林ファンのあの方には申し訳ないが、今回はこっちを取らせていただく。
可能であれば、このブログ読者諸兄姉にも、読んでほしい書籍があれば紹介してほしいと思う。その際にはぜひ、選択肢を極限にまで狭めてほしい。ワガママかもしれないが、どうぞよろしく。