点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

平沢進『RUBEDO/ALBEDO』は結局好き

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思想的な部分は相容れなくなっちゃったけど、相変わらず僕は平沢進を聴いている。

染みる~。気持ちいい~。

10年以上聴いちゃっている音楽は、作者がどんなになっちゃっても、とりあえず聴いてしまって、ちくしょーとか思いながら「ここが俺のツボなんやな」と再認識させられてしまう。分からされる。年甲斐もなく、戻ってくるのはココなんだ……とかなる。

原曲の面影を重視しながらも、結構改変されているアレンジ具合。安心感や安定感がありながら、同時に新しい刺激をリスナーに届けてくれる。いいじゃんいいじゃん。

なんなら、ここから平沢入ってもいいんじゃない?ライブ定番曲が多めだし、なんかアルバム購入しなくても全編聴けるっぽいし。とか思うのはファンだからかもしらんけど。

FUJI ROCK 2019は過去の記事で情緒を爆発させながらレビューしたことがあるんだけど、そのライブアレンジ音源が手軽に聴けるのも純粋に嬉しい。

あと、正直最近のライブ特典音源に対しては僕の好みとのズレがあったり、「え!?違うところそんだけー!?」みたいなマイナーチェンジバージョンばっかりだなあという不満があったから、新しいところ満点てんこ盛り盛りのデレを見せてくれて、僕みたいな老害ファンも納得って感じのアルバムになっていると思う。

ファンからするとこれで2,000円は安い。

軽く現時点での全曲の感想を覚え書きしておく。

01.TOWN​-​0 PHASE​-​5 2019

1番記憶と違った曲。こんなロックな入りだったかしら!リズムボックスだよ!カウベル!「可視海」みたい。

うっすら後ろで原曲が流れながら、FUJI ROCKの再現だからだろうけれど、生ドラム(打ち込み)にパーカッションが入れ替わっていて、ギター重視のミックスになっている。

4つ打ちのTOWN-0 PHASE-5はこんなにも力強いのか。

ズンズンと行進していく感じ、いいなーー。

ボーカルのミックス具合全然違くて一瞬新録かな~?とか思ったけど、ちょっと分からない。多分『救済の技法』と同じテイクかなあ。新録だったら嬉しいね。

全曲の中でも1番ライブ感がある仕上がりになっている気がする。音がモヤ付いていると感じる人もいるかもしれないけれど、これはこれで良いな~って感じ。いぶし銀。渋さがあると思う。

ストリングスの音も差し替えているのかな?Hollywood Stringsっぽく聞こえる。サビのコーラスも控えめになっているけれど、個人的には全然埋もれている感じはしないからナイスバランス調整って気がする。

僕らの1曲目だよね。

02.Archetype Engine 2019

ベースになっているのは第9曼荼羅バージョンのArchetype Engine。ダウンロードコンテンツ版よりも音のバランスが良い。ギターリフやソロのフレーズが分かりやすくかっこいい。初めての人に寄せているのかな。

相変わらずボーカルの音量小さい。聞かせたいのはそこじゃないんだろうなって感じ。でも原曲のサビの、あのこってり馬鹿コーラスとか、サビ前のティンパニのハッとする感じが好きなので、個人的な好みからは外れている。ループ音楽なんだし、そういうメリハリがしっかりしているほうが好みだなあ。

03.フ・ル・ヘッ・ヘッ・ヘッ 2019

ベースはLIVEビストロンの2005年版だと思う。前の2曲とうってかわって、平沢のボーカルが近いしドライだし。流れで聴いていると、結構「お~」となる。

そういえば、あんまりこの曲単体で聴いたことなかったな。セトリの中で聴くことが多かった。ライブで入りを間違えてた部分とかの展開こうなってたんだ。しっかり聴けて嬉しい。そっちに気を取られていて、FUJI ROCK当日は全然気がつかなかった。いいアレンジだと思う。

こういう曲調だから、ずっと聴いていると飽きるし、後半はノンストップで突っ切るというのが売りの曲だし、前後半の部分でしか変化つけられんからアレンジ難しい曲だと思う。でもそこでベストなアレンジシている感じがある。

ラスト付近のバカティンパニー残してくれて嬉しい。

後半からクワイアのサンプル使っているのかな。オケヒじゃなくて、コーラスヒットって表現したほうがいいのか分からんけど、盛り上げていく感じが今の平沢さんっぽくなっていて、この混ざり具合がバランスいい。

04.夢みる機械 2019

ベースは『変弦自在』のストリングスバージョン『夢みる機械』。イントロ以外はそれほど大きなアレンジは無いと思う。ガットギターがエレキになっているくらいかな。ちゃんと聴き比べしていないけど、多分全体的に少しだけリバーブが深めになっているのかも。なんか聴き心地が違う気もする。

僕は過激な「サビのバカコーラス大賛成だけどなんでメインメロディー聴こえにくくしてしまったのだ学派」なので、全然期待していなかったんだけど、やっぱり今回もメインメロディーのボーカルラインはコーラスに埋もれちゃった。

なんか他のバージョンよりもメインメロディー聞こえやすい?とか思ったけど、多分長年積もりに積もった願望が認知の歪みを引き起こして、勝手に僕の脳がメインメロディーを拾おうとしている結果だと思う。

そういえば2021年もこのバージョンだったよね。気に入っているのかな。イントロかっこいいもんな。

05.Jungle Bed 1.5

今回の目玉曲のひとつだ。段違いでカッコいい。今日だけで10回以上聴いている。

2019年FUJI ROCKで聴いた時は本当にぶち上がったなあ~。思い出しちゃう。それまで歌詞がついていなかった(ナレーションを歌詞と呼ぶのなら違うのかもしらんけど)曲に歌詞がつくのは賛否あるんだろうけど、「これこれ~~こういうの待ってた~~」っていうメロディーライン。文句なしですよね。不穏に低めのボーカルで入って、一気に唐突に情緒を揺さぶるハイトーンに移るのって、結構冒険だと思うけど、「平沢さんならOK」って感じ。どうも、信者です。

歌詞の語感もいい。

「生きる」の発明者は誰?

だってさ。安直かもしれないけれど、なんとなく中期っぽいじゃない。その後一気に、

ライオンを見よ
息の音に邪気を吐き熱く喰う

体温を見よ
凍てつき覇気を削ぎ愛を消す

とか言い出して一気にマッドな啓蒙をしだすのも、なんだか一周回って格好いい気がしてきている。

ザ・Synth1って感じのシンセも、軽いシリコンテクノポップに馴染んだ耳には気持ちがいい。こんなにうねらせていたんだなあ。

ミックスも全曲の中で1番好みのバランスって感じがしている。気合入っていると思う。

06.牛人

平沢ファンクラブのグリーンナーブ退会しちゃっているから音源持ってなかったんで有り難い。まじで全然今まで聴いてこなかったんで新鮮に聴けている。FUJI ROCKの平沢出場ティザームービーで流れた謎のカッコイイ新曲ってイメージが抜けていなかったんだけど、今回の収録でいろいろイメージ変わりそう。

ところでギターアルバムどうなったんだろ。なんかあのゲームみたいな企画、いまいち乗れなくて進捗全然分からんです。

Bメロの浮遊感すごい。サビ前の不穏な感じに自然につながるし、そこだけ切り取って聴いてもかなり印象的なフレーズでがっつり耳に残る。3分ちょっとという尺も丁度いい。フェスでの空気入れ替え曲という立ち位置にしては格好良すぎる一曲だと思う。

07.Nurse Cafe 2019

ベースは『Switched-On Lotus』版の「Nurse Cafe」。僕は平沢さんの楽曲の中で1番聴いているのが、『SIREN』版の「Nurse Cafe」でして、統計上1番好きな曲だ。

自分でもカバーしちゃった。(これは露骨な誘導です。書き手の醜い自己顕示欲に注意してください。)

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なんでわざわざこの話をするのか?

そう、イントロのオペラサンプリングの話をしたいから。このカバー作る時、本当はサンプリング元を突き止めて原曲再現!みたいにしたかった。SIREN版のあのコラージュ感は、きっとサンプリングしとるからだ!!と踏んだから。でも結局分からなくて、自分で歌った。2番のエセカウンターテナーも、その延長線でせっかくだしみたいな感じに入れちゃった。今となっては余計なことしたかなって思っています。

耳コピしきれなくてちょっと間違えてるし。こういうことも起きるだろうからサンプリング元を突き止めたかった。悔しい。

今回のバージョン、SIREN版で使っていた音源ではないところから持ってきた同じメロディーラインのサンプリングを挟み込んでいる。テッ↓テッ→テー↑テッ↓テッ→テー↑のところ。それと、なんか「フォ~~~ルテ~~~~~」みたいな新しいサンプリングもぶっ込んできている。大袈裟だけど、有りだと思うんですよ。周りのオケが静かになったタイミングだしね。作ってて楽しかっただろうな……。

『Switched-On Lotus』でわかりにくかったBメロのストリングスフレーズも、ミックスがしっかり住み分けされていて聞きやすくなったというのは、平沢耳コピヘッズ共には朗報だと思う。スイッチョン版好きな人、良かったね!

長くなっちゃった。最後に、ところで、詳しい人。このオペラのサンプリング元知りませんか?

助けて。

08.AURORA 2019

ベースは「AURORA 3」かな。

やっぱりAURORAはすげえいい曲。メロディーがまっすぐで、情緒を直接揺さぶってくる。アレンジ元がはっきりしている音源の中では好き嫌い別れるアレンジしていると思う。イントロのグリッジ音やオーバードライブされた棘のあるシンセと、しっとりしたAURORAの世界観は合わない!みたいなことを考える人は多そう。

でも曲を通しで聴いてみると、しっかりと音の役割を分けている気もする。AメロやBメロでは、ルート弾きのギターを左チャンネルに添えて原曲よりもノイジーにしている代わりに、元の「AURORA 3」で使われている音色を尊重している感じがある。

Bメロで入ってくるホルンのフレーズ大好きだから、それが埋もれずにしっかり聴こえてうれしい。

帯域を埋めるギターを3本も使うアレンジだからこそ、音の住み分けはしっかりしている気もする。原曲よりもモヤリが少ない感じ?(そのかわりギターががっつりモヤっている?こんなもんかしら?ギター詳しくないからよく分からん。テキトー言っている可能性大。)

ちなみに僕の再生環境はiPhone付属のイヤホンです。音楽作っているときも基本はこれ。スピーカーなんて置こうもんなら苦情間違いなしの住環境だからね……。マスタリングヘッドホンも買う余裕無いしね。なのでちゃんとした環境で聴いたら全然違う印象になるかも。あくまでも個人の意見と好みってことでよろしくです。

09.白​虎​野 2019

「お待たせ」曲。のはずなんだけど……。

う~~~ん。これ明確に僕の好みじゃない部分がある。イントロの入り、めっちゃ良い。原曲のハープのカットアップエレキギターのコールアンドレスポンス。でもその後いきなり『点呼する惑星』とかで使われているような「ピュオワワワワワアアアンンン↑↑↑」みたいなアナログシンセSEが入るんだけど、ちょっとチープ過ぎないかなって思ってしまった。

この音めっちゃ何回も鳴るんだけど、その度に「白虎野」から現実にワープさせられちゃう気持ちになる。入りで「ピュオワワワワワアアアンンン」、サビ前のブレイクで「ピュオワワワワワアアアンンン」、間奏で「ピュオワワワワワアアアンンン」、そして後奏でダメ押しの「ピュオワワワワワアアアンンン」。

嗚呼、僕を白虎野に帰しておくれ。

10.HOLLAND ELEMENT 2021

全国8000万人のP-MODELファンの皆さんおまたせしました。

「おめーらこのアルバムではよお、これが聴きたかったんだろ?」と言わんばかり。見事に入れてくれました。ありがとうございます。本当に嬉しいよね。分かる。僕も嬉しい。

あのFUJI ROCK2021から待つこと2年。配信では「カバーで空耳すんなボケ」とお叱りを受け、全世界の耳コピ芸人が吹き飛んだ。他人に寄生して自己顕示欲を晴らしていた僕も吹き飛んだ。

嬉しい嬉しいって書いたのは、今回のリリースで「カバー黙認」の狼煙があがった!とかではなくて、(というかそういう風に全然捉えていない)純粋にこのバージョンの音源が欲しかったから。

イントロのシンセフレーズでは全然どんな曲か分からんサプライズ方式からの、書き下ろし歌詞によるシャウト気味な入りで面食らい、おなじみのベースのフレーズで脳がようやく「理解」っちゃったねした時、ドーパミンがドバるんだよ。

ごめんね怪文章で。でもそうなんだ。皆そうだったに違いないんだ。

近年の平沢さんが取り入れた、多分NIのSESSION HORNSなんだろうけど、おリッチなブラスセクションで奏でられるイントロ後半部分、良いよね。その後も鳴り止まず、終始ブラスが目立つアレンジは、脳が喜ぶしか無い。

配信で聴いたときは生ドラムだったこともあって、もっとパーカッションが重く聴こえていたから、そこらへん物足りなさがあるかも。「平沢サウンドに重さを求めるな」と言われちゃえばそれまでなんだけどさ。ゴリッとした感じもっと出しても、平沢さんの声とはバランス取れると思うんだけどなあ。トーシロが偉そうにすんません。

結論:でも最終的に全部好きになりそう

僕は平沢(サウンド)信者にもかかわらず、なんかこの記事でいろいろ偉そうに書いてるけれど、多分時間がそれを解決してくれて、最終的にこのアルバムに関しては「おおん、全曲ええよな」ってなりそうな雰囲気がある。

無批判ではいられなかったから「ピュオワワワワワアアアンンン」とか書いちゃったけど、数年後、「いやあれはあれでいい。ピュオワワワワワアアアンンン」とか言ってそう。カラオケで再現しながら歌ってそう。

ワープ!!!

 

おしまい。