点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

ライト書評20160914『トラウマ映画館』『学問のしくみ辞典』『いじめの構造―なぜ人が怪物になるのか』

町山智浩『トラウマ映画館』──映画レビューのお手本

トラウマ映画館 (集英社文庫)

トラウマ映画館 (集英社文庫)

 

 売れっ子映画評論家である町山智浩氏による映画レビュー本。タイトルからして面白そうなかおりが漂ってくる本ですが、期待以上の内容でした。観れば心に悪~い意味でグサグサ来るマイナーな映画の数々を、臨場感たっぷりな文章でレビューしています。内容的に、視覚的にエグい作品のオンパレード。見たこと無い映画が大半ですが、それでもまるで、レビューされた作品を見終わったかのようなドンより感を味わえます。シーンの引用や文章による描写の仕方はさすが映画評論家としか言いようがありません。普段の町山氏の過激な言動に目くじらを立てちゃうTwitterヤンキー達は、是非本書を読んで欲しいです。また、映画レビューブログを書きたいとか、映画評がしたい!という人は、町山氏がどういう文章で映画を論じているか、分析しているかという点に注目してみると、参考になるかもしれません。

町山氏があとがきで書かれているように、このような映画は好きこのんで見る人というよりかは、たまたま見てしまって、ずっと心に残っているというケースが多いとおもいます。テレビであらゆる映画をバンバンやっていた時代、はたまたテレビ東京でやっている午後ローなどのコアな映画をやっているチャンネルをふっと回したとき、うっかり見続けてしまうという選択を取ってしまったが最後、脳にこびりついて仕方がなくなる羽目になるかもしれません。そうなったら町山さんのように、文章に思いを綴って供養するというようにして、この世に面白い映画レビューが増えれば良いと思いました。

『学問のしくみ辞典』──自分に何が足りないか

自己啓発難民になっていた頃、多くのビジネス書を読み漁り、うおー!勉強しなければ~!と息巻いて、中途半端にいろんな学術書を読んでみたりしておりました。しかし、それらを読んで身についた知識は微々たるもの。自分が知っている経済学や哲学の知識がいかほどか?というのも分からないくらい、断片的な情報が頭に散乱している状態でしたが、本書はそうした中途半端に学術的知識を得てしまい、そんな状態を改善したいな~というデフラグ志望の方々におすすめできる一冊といえるでしょう。

本書が取り扱う学問は「人文科学」「社会科学」「自然科学」「文化芸術」という4つの大カテゴリーに分かれており、○○学と名前のつく学問の概略が沢山載っています。基本的な流れとして、その学問の成立過程とよく使われる用語の解説が掲載されていますが、個人的に一番ありがたかったのが「参考図書ガイド」。初級中級上級に別れ、それぞれの分野に併せて3冊ずつ本がリストアップされており、これだけのために購入してもいいのではないかと本気で思います。博覧強記を目指しているとか、学問一般に興味あるとか、そういう人は持っておいて損はないガイドブックの決定版です。

『いじめの構造』──人の心を無くすメカニズム

いじめの構造―なぜ人が怪物になるのか (講談社現代新書)

いじめの構造―なぜ人が怪物になるのか (講談社現代新書)

 

なぜいじめが起きるのか?については、面倒くさくて誰も突っ込みません。いじめとは限られた空間で起きることが大半で、その原因の究明をしたところで、不確定な情報を元に探らなくてはならないからです。しかし本書は、「なぜいじめが起きるのか?」ということに向き合い、いじめが起きるメカニズムをモデル化しています。問題提起に終わらず、学校などのいじめが起こる現場の環境改善など、次に繋げる主張を提案しており、好感がもてます。

どこまで本当か分かりませんが、当時のいじめの実態、特にえげつないケースを知る資料としても本書は価値があります。もしかしたら、いじめから「自殺したい」という願望を抱えている子どもたちに読んでもらいたい本でもあるかもしれません。なぜ君たちはいじめを受けているのか。いじめによって自殺してしまった人の周囲はその後、どうなったのか。君たちを苦しめている奴らが、いじめ自殺を受けてどういう風に変わるのか?周囲の大人のサポートが必要と思われる箇所もあるけれど、客観的にいじめを捉え直した良書だと思います。