点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

『新書がベスト』──読書術本の個人的優勝候補

 

新書がベスト (ベスト新書)

新書がベスト (ベスト新書)

 

 読書をしなきゃと思っていても、これがなかなかできないと思う人は、小飼弾さんの『新書がベスト』を読んでおいて損はない。特に小説ではなく、ノンフィクションを読みたいという場合は、とりあえずこの本を読んで、実践してみてほしい。読書の習慣が身につくはずです。読書の心構えと効能を、読み手に分かりやすく説明しているし、他の読書術本にありがちな、「中途半端な真面目さ」がほとんど無い。

著者の小飼弾さんは無類の本好きで、彼の運営する読書ブログは月刊100万PVを超えている。1冊10分から20分で1日10冊程度読んでいるというから驚きだ。読書を習慣づけたい人は、読書とは気軽で、楽しいものであるということを知らなければならない。読書は気軽でいいということを知るのに、本書はうってつけだ。同じ著者で『空気を読むな、本を読め。』とか『本を読んだら、自分を読め』とかもあって、こちらもなかなか面白い。けど、断然こっちをおすすめしたい。何故か?タイトル通り、読書の入り口には「新書がベスト」だからだ。

読書に苦手意識を持つ人は本書を読むことで、少なくとも「新書読み」になれる。この本は著者が「新書さえ読めば今の時代生きていける」と豪語するところに、他の読書本とは違った特徴がある。

これからの世の中で生き残りたければ、新書を読め。
本書で私が言いたいことは、たったこれだけのことにすぎません。 

なぜ生きるために読書をせねばならんのか、という理由については、よくある読書本とまあ同じ。ITが発展し、既存の仕事が自動化していくことが目に見えているので、人間は機械ができない仕事をできるようになっていなければいけない。さらに、箸にも棒にもかからないクソ情報で溢れる現代を生き抜くには、情報を取捨選択して自分で引っ張ってくる、それでもって自分自身の力で「知の体系」を作る力も必要だと小飼さんは主張する。

さて、真面目な方は「新書だけで本当に大丈夫なんだろうか」と思われる方もいるかもしれない。

小飼さんに言わせれば、「1000円以上出す価値のある本は、そんなにない」という。

パレートの法則という経済学の考え方がある。会社組織で例えるなら、組織全体の利益は、2割の重要な人々が生み出しているというアレだ。本にも同じ事が言えるのではないか?と小飼さんは言う。つまり、あなたにとって、「こいつはすげぇ!」と思える本は、あなたが読む本の2割にすぎない……のだとしたら?これからたくさん本を読もうとしているのに、読みにくく、場所を取り、値段の高いハードカバーを選ぶ理由は少ないはずだ。

また、新書はコンパクト故に、習慣化しやすいという最大の特徴がある。

 なにか新しいことにチャレンジするのなら、それを習慣化してしまえばよいのです。
 読書の場合なら、いつでも目に入るところに本を置いておくことが習慣化の第一歩。

新書は男性用の大きめズボンの尻ポケットに入れることができるくらいの大きさだ。さすがに尻ポケットからヌルリと新書を出して読むのは変かもしれないけれど、カバンのポケットになら余裕で入る大きさだ。いつでもどこでも持ち運べる大きさなのが新書の良いところだ。収納にもハードカバーほど困らないから、家のあちこちに新書を置いておこう。

長さも非常に丁度いい。読書に慣れてくれば、30分から1時間程度で読み通すことができるライトさは、読書に苦手意識を持つ人にとっても都合がいい。

そして新書は中身が問われるものであると小飼さんは主張している。装丁で本の内容が想像できないからだ。新書はレーベルごとにカバーデザインが決まっているため、見た目の豪華さでごまかせないから、中身を読まなければいい本か悪い本か分からない。よほどタイトルがキャッチーか、中身が良いかでしか売れない。そのため、新書にもいい本がたくさんある。その証拠に小飼さんは、「ブックオフには新書が出回りにくい」と主張する。

しかしこれは本当か。ブックオフの新書コーナーもだんだん賑わってきているように思うな、と感じる人もいるだろう。

これは仮説だけれど、新書もクソ本が増えてしまっただけだ。新書ブームというのが2005年くらいのときにあった。養老孟司さんの『バカの壁』を筆頭に、新書が売れに売れた。宮崎哲弥さんの『新書365冊』にも書かれていた気がするんだけど、この頃からちょっと様子が代わり、キャッチーなタイトルで釣り上げるだけ釣って中身がクソなものが新書に多くなった。新書が軽んじられる要因の一つになっていることは嘆かわしいが、クソ本にも効能がある。批判能力の向上だ。

読み終わるのにさほど時間がかからない新書だが、それでもネット記事やブログ記事なんかよりは、練られた文章であることは間違いない。著者は根拠を提示しながら自分の論を展開する。思いつきで批判やツッコミは入れられない。そこで、どこをつついたら著者の主張の妥当性が崩れるのかを探しながら読むのも面白いところだ。

今こそ新書を見直す時だと思う。読書の習慣も身につくだけでなく、程よい長さなのでダメ本に対するツッコミもしやすい。ベストセラーが解説付きで新書化もする。最近でもないけど、福岡伸一さんの『動的平衡』などは新書化された。リーズナブルな価格帯だから、よほどお金に余裕がない時以外は、著者応援ということで新刊を買える。

コストパフォーマンスという言葉が大好きな現代人にぴったりのメディアが新書なのだ。