点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

いまさら『氷菓』を観る

何もやる気が起きない日が少なくなってきた。よい兆候だと思う。

趣味を楽しめる心の余裕が無くなったら、いよいよ精神の骨折も夏本番という具合だが、アップダウンを繰り返すうちに、ダウナー状態でも持ち直すことができる日が増えてきている。

しかし今日は1日が始まってから全てにおいてやる気を失っていた。

もうその時に決めたことをしようと思った。しかし本を読むことすらままならないほどの無気力状態である。手にしたスマートフォンOPPO R15ProでTwitterを確認すると、つい先日投稿した動画にどんな反応が返ってきているのかというエゴサ欲求が支配し、この世で一番無駄な時間を過ごしていることに気がつく。

自己嫌悪しながら天上を眺め、暇になり、またエゴサーチ、挙句の果てには自分が作った音源だけループして聴けば自己肯定感があがるのではないかというよくわからないナルシシズムを導入しはじめた。そんな思いつきで精神状態が回復するのではないかという仮説の検証などするという不毛な何時間を繰り返していたが、その流れを一変させたのが『氷菓』というアニメだ。

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 『氷菓』は<古典部>シリーズと呼ばれる米澤穂信さんの小説を元にした、京都アニメーション製作のアニメである。

2012年に2クール分放送されており、Netflixで配信中のものを視聴した。一気観だ。男は黙って一気観なのだ。

当時相当話題になっていたのを記憶していたのだけれど、「非ミーハーアピール症候群」「天の邪鬼」「流されません病」を患っていた僕は、見向きもしておりませんという顔を必死に取り続け、今日まで至ってしまった。

もっと早くに出会っていれば、爽やか青春群青劇ミステリを糧に、日々の辛い出来事を克服するということができたであろうに、実にもったいない7年間を過ごしたと後悔した。

なんと言っても、省エネ主義を掲げる主人公の折木奉太郎(おれき ほうたろう)の格好良さ、ヒロインたる千反田える(ちたんだ-)の可憐さ、ひょうひょうとしながらもしっかり主人公をサポートする福部里志(ふくべ さとし)の小粋さ、事件を引っ掻き回す伊原摩耶花(いばら まやか)のキュートさ……というメイン登場人物4人が全員いいキャラしていて、3話視聴後に沼に落ちた音がした。

主人公の折木奉太郎は、『涼宮ハルヒ』シリーズの主人公であるキョンの上位互換的なパーソナリティと能力の持ち主である。僕がこれを中学生の時分に視聴したならば、間違いなく憧れていたに違いない。

アニメでは『涼宮ハルヒの憂鬱』に遅れを取ったが、<古典部>シリーズ第1段の原作『氷菓』は『涼宮ハルヒ』シリーズよりも先に発表されている。やれやれ系といえばキョンの名を挙げる人が多いと思うが、2000年代以降のやれやれ系元祖は折木なのだ。だから偉いとか、そういうことが言いたいんじゃない。彼も大いにサブカルシーンで注目されるべきキャラクターであることを伝えたい。個人的にはキョンよりも好きだ。

「省エネ主義」というプリンシプルに従い、他人に非干渉的なライフスタイルを自覚的に取っているのにもかかわらず、断片的な情報を統合し、仮説、推論を立てる能力に長け、周囲を驚かすというホームズの一面をもつ。

その推論能力をかわれ、多くの人から頼りにされる。特に、ヒロイン千反田えるは好奇心の亡者であり、「私、気になります」と一度発すると、折木はやれやれといいつつも、事件の真相にたどり着くための推理を始める。しかも見事に解決してしまうというのだから、たまったものではない。

そういう意味で、安心して観ることができる。疲弊した山﨑にとって、これは重要ポイントだ。観て疲れてしまう作品は却下である。

間違いなく中学2年坊主のときに観なくてよかった。だって今観ても、いいな折木、折木いいなぁと物語中盤から福部里志が折木に見せる劣等感に似た心地で折木を眺めている自分に気がついたのである。こいつは最高に「クール」である。悔しい。

未視聴の方はぜひこのやりすぎないやれやれスタイルの小気味よさを体感して欲しい。

 

青春特有の甘酸っぱい云々が苦手という人でも許せるモダモダ感なので、恋愛コンテンツアレルギー罹患者にも優しい作品であると思う。観れてよかった。元気が出た。

 

今作以外にも、京都アニメーションの作品には大変お世話になっている。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝』が楽しみで仕方がない。

しかし、京都アニメーションは、平成以降最悪の放火殺人事件により甚大な被害に遭われた。今作に携わったクリエイターの中にも犠牲者がいる。

心からご冥福をお祈りするとともに、アニメーションを生きがいにするスタッフの回復と、ご遺族のケアが順調に進まれることを願う。

ご支援の御礼とご案内(初出7月24日、改訂8月6日) - 新着情報 | 京都アニメーションホームページ


<原作(出版順)>

氷菓 「古典部」シリーズ (角川文庫)

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愚者のエンドロール 「古典部」シリーズ (角川文庫)

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