点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

読書好きによる読書不要論

日本国民の約半数は、一月に一冊も本を読んでいないというデータがある。*1

いわゆる教養人は、こうしたデータを読むと、「もっと読書をするべきだ。さもなくば日本は滅びる」云々と机上の空論(中には妥当なものもあるが)を延々と述べたりする。その根拠は「日本は民主主義なのだから、みんなが賢くならないと、変な政党や政治家を選出する」とか、「国民がマニフェストをろくに精査しないせいで、政治家は守れもしないマニフェストで堂々と活動する」とか、そんな具合だ。

しかし本当にそうなら、とっくに日本は滅びてもいいだろう。変な政党や政治家は既にたくさんいる。マスメディアが政治について報じる内容は、「○○議員がすごい立法案を提出した」とか「□□議員が欠点のある現行法への打開策を提出した」というものは少ない。「不祥事」やら「汚職」やら、そんなものしか取り上げない印象すらある。

そんなグダグダ政治でも、日本はまだ存続している。

いったいいつになったら滅びるんだろう?という疑問から、「読書は必ずしも必要な行為ではない」という、現代を憂う教養人からしてみれば、超絶楽観的な立場を取ることにした。

読書は、「本を読むことが好き」もしくは「読書が必要だ」と感じた人がすればいいことだ。「読書そのものが好き」、「読書が必要だ」という理由以外に、強烈な読書動機を喚起させる何かがあれば教えてほしい。憶測だが、それ以外の理由で本を読むというのは、インクのシミを眺めているような苦行でしかない。

僕は教養人ではないので、「読書は現代人にとって必須である」というような主張をする気は無い。「俺は本を読まない」という人とか、「読書人口が減っている」という話題を見かけると、ただ単に、「このままだと紙の本が消えていくな」という残念感しか感じない。

これは「読書という文化の喪失そのものに対する危機感」であって、「そうなると嫌だな」という利己的な理由から「読書しろ」というのは、独善的すぎると思う。本好きはついつい、本を読むことを人に勧めるけれど、「別に本なんて読まなくていいよ」と誰か言ってあげる人はいないのかしら。いるかもしれないけれど、少数派ではないか。僕はその少数派になりたい。

教養人は目を覚ましてほしい。読書なしで生き残っている人々の、なんと多いことか。滅びるのは日本ではなく、時代の変化についていけなくなっている出版業界だ。

本屋で平積みされているビジネス本の中には、「学習」の重要性を説くものが多い。その中でも取り分け、読書がなぜか特別視されている。気がする。

読書は不必要。そういう意見を持っていても、研究職の人や文献調査する人を、軽視したり、バカにしているわけでもない。

僕はそういう能力を持っている人を羨ましく思う。僕もそうなりたい。社会的にも有益な技術であり、研究職というのは滅びてはならないと思う。

でも、特に興味もない人に、「読書は素晴らしい!」と喧伝するのはいかがなものか。そうした「読書教」めいた言説に共感ができないだけだ。言葉が悪いかは読者にその判断を任せるが、何かの専門家というのは、その分野のオタクであって、その分野が社会的に評価されるかというのは、社会がその分野をどれほど必要としているかという、極めて流動的なものである。ありがたがっても仕方がない。

アカデミックな世界の話はアカデミックな場所でしか、もはや通用しないので、そろそろ「別に読書なんてしなくても生きていけるよ」という人がいてもいいんじゃないか。

「読書しなくても生きていはいける。しかし……」という意見を持つ人はいるだろう。けど、多分、普段本を読まない人には、そうした意見は届かない。読書家が、本との距離が離れている人に、活字媒体の有用性を説くのは、猫にドッグフードを勧める犬のようなものではないか。

ドッグフードを見た猫は言うだろう。「はやく食い物を見せろ」

読書との距離が離れている人は言うだろう。「御託はいいからはやく面白いところを見せろ」

僕は、ネットニュースとdマガジンなどの雑誌購読サービスを利用すれば、現代の社会問題を俯瞰できる知識は十分に手に入ると思っている。

雑誌はトレンディな話題を扱うが、新聞よりもタイムラグがあるので、書き手が事象の分析に時間をかけてくれる。使わない手は無い。

本はさらにタイムラグがある。どんなに最新事情を教えてくれる本でも、どんなに大急ぎで書いた本だとしても、最短で3ヶ月から半年ほどのタイムラグがあるだろう。リアルタイム性で言えば、雑誌は書籍よりも圧倒的に有利だ。

読書の利点は、「頑張れば著者の分析の視点をものにすることができる可能性を秘めている」ことだと思っているが、場合によっては雑誌で事足りてしまう場合もある。

売れっ子著者なら、雑誌の連載をまとめただけの本とかもある。ビジネス本に載っている仕事術なんかは、雑誌購読サービスで読めるビジネス誌などでも代用できることも多い。

無理して本なんか読む必要があるのか。

無教養を自覚した人は、情報の取り寄せ方なんていくらでもあることに気がついてもらいたい。読書じゃなくてもいいじゃない。ツイッターでもフェイスブックでもインスタグラムでもグノシーでもスマートニュースでもいい。もう少し詳しく知りたいなら雑誌を読んだらいい。こうしたライトな媒体を使っていくうちに、利点と欠点が見えてくる。

「もっと詳しく知りたい」

そうした欲求が出てきたとき、はじめて読書が必要だと思うときが来るかもしれない。その程度でいいと思う。

「本を読むのが好き」という理由以外で本を読もうとしている人へ。

無理しなくていいよ。ネット使いな。雑誌読みな。