点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

本多静六『私の財産告白』──貯金ができない人が読むべき本

財産告白

私の財産告白

私の財産告白

 

 

たまには自己啓発本

僕は金にだらしなく、その場の欲望を金で補ってきたおかげで、金欠の割にはブクブク太ってしまっている。告白してしまうならば、いくらか借金をしている。奨学金も支払っているので毎月やっとこさ暮らして行けている状況だが、これ以上借金を増やすといよいよもって回らなくなる。

危機的状況に陥っても尚、持ち前の楽観主義が災いし、「まあなんとかなるでしょう」と、だましだましクレジットカードを利用する。クズである。我欲を抑えるよりもまずは腹ごしらえ、というような状況。それに加え読書欲求を抑えきれずに読書代が膨らみ、今月は家賃の支払いも危うい状況に陥ってしまった。25歳にもなって恥ずかしい限りだ。

改善を本気で考えなきゃ死ぬ

このままでは、同居人も巻き添え食らってドロップアウト。すでに幾人かに迷惑をかけたりやお世話になったというのに、この体たらく。このままではいかんと思い、封印していた「意識高い系」の蔵書にも手を出してみたが、うんともすんとも心に響かず。

曰く「運命を引き寄せろ」うんぬん、「思考は現実化する」うんぬん、挙句の果てには、「長財布は金が貯まる」という内容まで書いてある。

このような内容の本を、自分が身銭を切って得た書物から読むというのは、精神衛生上非常によろしくない。そりゃ、こんな内容の本を参考にしていたら金が貯まるどころの騒ぎではない。むしろ金がなくなる。念仏を唱えていれば、想像世界というバーチャル空間で極楽浄土に行けるかもしれないが、しかし金は貯まらないのである。

そんな中、幻想じみたことを言わず、参考になるかもしれないな、と思った本があった。それが本多静六『私の財産告白』である。同名タイトルで1950年に出版されたものを、新しく出版しなおしたものだ。今は電子書籍版でも読むことができる。

「倹約せよ」と当たり前のことを再確認させてくれる本

著者の本多静六は明治時代に活躍した学者だ。日本の有名な公園の設計などを手掛けていた実績から、「日本の公園の父」と呼ばれている。赤貧の時代を暮らしつつも愚直に資金をため、株式投資で資産を増やし、学者でありながら巨万の富を築いた実業家としても知られいる。本書は、本多がいかにして富を成し、築いた富を晩年に寄付するまでを本多自身が書いている。

本多は幼い頃から貧乏を経験していた。学者時代として自立を志すようになってから、かねてからの貧乏を脱することを決意する。本多が実践したのは、貯金額を収入から差っ引く方法だ。

そこで断然決意して実行に移ったのが、本多式「四分の一天引き貯金法」である。(中略)

いくらでもいい、収入があったとき、容赦なくまずその四分の一を天引きにして貯金してしまう。そうして、その余の四分の三で、いっそう苦しい生活を覚悟の上で押し通すことである。(中略)

「あらゆる通常収入は、それが入ったとき、天引き四分の一を貯金してしまう。さらに臨時収入は全部貯金して、通常収入増加の基に繰り込む」法である。

今の僕がこの通りに実践すると劇ヤバ状態だが、多少貯蓄の金額を和らげ、当面の間はこれをやることに決めた。意志の強さ、というより、煩悩をどれだけやっつけることができるかというのが勝負になってくるだろう。

本なんか読まなくても分かること

どんなに収入が多かろう少なかろうが、使わなければ金は貯まるし、使えば貯まらない。

月収1億円でも2億円の赤字があっては元も子もない。小学生でも分かることだ。

現代人は、呪文を唱えればあなたもハッピー系の精神世界系の本や、君もこのビジネスで年収10億円!というような即金持ち系自己啓発本に毒されてしまっている。ちょっと前の僕ですけれども。しかし、そのような著者でさえ、「貯金」というのはごく自然に行っている当然のことである。赤字出すような人が自己啓発本を出したところで、貯蓄ゼロどころかマイナス男である僕が書いているこの記事のように、薄っぺらいものになってしまうだろう。

月収が15万円で、そのうちの1万円を使わずにためておけば、1年で12万円、5年で60万円溜まることになる。さて、どれだけの人が、どれだけの頻度で、「ええい!ままよ!」と衝動買いをしてしまっているのか定かではないが、たかだか毎月1万円の衝動を抑えるだけで、10年続ければ120万円の貯蓄が生まれる。

ところで、貯蓄の話なんぞをすると、金の価値自体が目減りしている昨今に、そんなことをしてもあまり意味がないという人が現れたりする。しかし、運用可能なキャッシュがあるのとないのと、果たしでどちらがよろしいか。便利に生活できるのは、紛れもない後者だ。

本多はこの天引きする貯蓄の方法でためた資金を元手に、投資を初めた。その手法も紹介されているから、投資に興味のある人にもおすすめできる本なのかもしれない。かもしれない、というのは、僕は投資というもののイロハを知らないので、読んでいてもあまりわからなかった。金も全くない状態だし、意識高い系の時期に調子に乗ると痛い目を見るということを痛感したので、投資なんぞにはあまり興味が無いということで、読み飛ばしてしまった。

読むだけになっていた僕の読書生活に、ほぼ初めて「実践」ということを意識づけてくれた本だ。文体は古めかしくて硬い印象があるかもしれないけれど、分かりやすい内容で読んでいてスッキリする。どうにも金がたまらねえ!という人は、本書を読んで目を覚まそう。楽に金は貯まらないのだ。地道にやっていくしか無いのだ。

「潜在意識」なんて制御不可能のあてにならんものを使え!と喧伝するセミナーに参加するよりも、よっぽど早く金は貯まるだろう。