点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

『宗教学入門』──一歩引いた立場から宗教を観察したい人へ

宗教学入門 (講談社学術文庫)

宗教学入門 (講談社学術文庫)

 

入門書というのは、時として初学者に牙をむく。門前払いを食らうことがある。

『哲学入門』だとか『数学序説』だとか、そういったタイトルには気をつけなければならない。『宗教入門』も然り。

宗教は哲学や数学よりも歴史が長い。扱うテーマも普遍的である。深淵の一言で言い表せない深淵さを持つジャンルであるから、これも入り口を見定める必要がある。僕は特定の宗教に傾倒するつもりは、今の所無い。特定のフィルターからでしか物事を見定めることができなくなることで、人生が豊かになるどころか、より生きにくくなることを、自己啓発難民時代に思い知ったからである。

そういう経験をしている人物にとって、宗教ほど危ないものはない。

よるべを求めて特定の価値観にすがり、その価値観どおりに、自分の頭でろくに判断もせず、物事を無理して解釈する。すると、不幸が服を来て歩くようになる。飛び込み型の理解というより、一歩離れた立場より俯瞰できるような、良い方法は無いものかと思案していたところ、「宗教学」という分野があることを思い出した。

手軽さ優先で選びとったこの『宗教学入門』は、アホの僕でも分かるレベルの入門書であった。こうして僕は宗教学に、おそらく入門を許された。

「宗教学」というのは特定の宗教の規範、規律、経典の内容を吟味する学問ではない。著者の脇本さんは本書の序盤で、宗教学の立場について、3つの点から説明している。

  1. 宗教学は客観的に事実を問題にし主観的な価値判断は避ける。
  2. 宗教を人間の生活現象の一局面としてとらえる。
  3. 特定の一宗教ではなくて複数の多宗教を資料として取り扱う。

「神学」や「宗学」といった経典・規範について思案する学問や、宗教の規範一般に渡る形而上の問題を扱う「宗教哲学」とは違い、「宗教学」は宗教において、人間の生活現象のみにフォーカスを当てることを特徴としている。つまり経典の内容や宗教の世界観、形而上の問題については評価をせず、宗教のありのままの姿を分析するものである。そして3番「複数の多宗教を資料として取り扱う」という点も、宗教学の特徴と言える。

宗教学の学祖の一人に、マックス・ミュラーという学者がいる。彼の専門は古代インド宗教であったけれども、古代言語に深い造詣を持っていたため、インド以外の地域で発見される宗教についても分析や考察を重ねることができた。ここに本書で取り扱う宗教学の原型となる「比較宗教学」が誕生した。

宗教を比較することの目的は、特異点と共通点を洗い出すことによって、宗教を類型化すること、それにより宗教活動の構造を解明しようというところにある。本書もこの流れを組み、宗教の類型化と構造の理解を、上記3つの観点を意識しつつ説明しようという書籍だ。宗教って怖いけれど、教養として知識を持っておきたいという人への最初の一冊として、本書は非常に役に立つ。

これとセットでポケットに収まる村上重良さんの『世界宗教事典』を読むのもいいかもしれない。『宗教学入門』はあくまでも、「宗教学とはどういう学問であるか」という説明に終止した書籍であり、まさしく比較宗教学の概説本である。

教義の内容や歴史などをもう少し知りたい場合は、一覧できる書籍も傍らにあると、より面白く宗教を勉強できるかもしれない。 

世界宗教事典 (講談社学術文庫)

世界宗教事典 (講談社学術文庫)

 
エリアーデ世界宗教事典

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