点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

営業はサイコパスに任せよう

僕はうつニートになるまで、ドコモショップ店員だった。

その頃、dTVやらdヒッツという自社製品をオススメせよというお達しがあり、ノルマもあった。僕はドコモのサービスで一番役に立つのはdマガジンくらいしかないと思っていた人間なので、dマガジンはオススメできた(獲得はできなかったけど)。それ以外はオススメしても罪悪感しか感じなかった。

典型的な営業向いてないヤツのメンタルってやつだ。

 

自分が良いと思うもの以外を客に勧めるということが死ぬほどイヤだった。

自分がよくないと思う商品を良いと思う自己暗示、自己催眠をかけても、好きになることができなかった。

好きでもないということが態度に出てしまい、そのサービスをどのように紹介すれば効率よく獲得できるかという思考すら止めてしまった。

変に頑固な自分の性格を呪った。

ひとつ希望があるとすれば、dマガジン月額400円を人に話す時はノーストレスであったということだ。ついでに言えば、このブログで平沢セット15万円をオススメするのもノーストレスだった。共通点は、「心底これはいいぞ!と思ったもの」ということだ。

好きなものを勧めるときは、使って欲しい、使ってくれたら嬉しい、使ってくれない場合でも「僕の紹介の仕方がまずかったかもしれないから、次はこうしよう」と前向きな反省をすることができる。

しかし、好きでもないものを勧めなければいけない場合、万が一契約されたら罪悪感しかないし、いらないと言われた場合は、数字的ノルマを満たせそうもないという自分の評価のことばかり気にしてしまう。これは強烈なストレスになる。

 

登録業務を覚えるまでは順調だった僕は、独り立ちした途端にグダグダになった。

自分でサービスを紹介し、営業しなければならなくなったからだ。先輩たちの手法を真似してもうまく行かなかったし、中にはコンプライアンス的にどうなんだと思うものもあったので、できないものもあった。営業ができる人は、こういうのを「言い訳」と言う。

そこで、言い訳ばっかり言っていられないと思い、僕は営業本に頼ったのである。

 

多くの営業本を読んでわかったことだが、営業はサイコパス性質がある程度無いとやっていけないらしい。これは先輩たちを観察していても気が付かないところであった。

売り込む相手が発するネガティブな心に鈍感にならなければ、営業は不可能である。

よく、「営業中の否定は自分への否定ではない」ということを言ってくる営業本がある。

一理あるが、僕たち「営業が苦手な人間」は、そんなことで悩んでいるのではない。

「こいつの話長いな」とか「グイグイくるじゃん」とか「欲しいけど、今は買えないな」とか「営業されてるな、嫌だな」という感情に対して敏感で、自分ごとのように考えてしまう。それがイヤなのだ。

「自分が否定された!」と感じていることが嫌なのではなく、お客の不快を感じること、それ自体が嫌なのだ。ワガママといえば、これ以上のワガママはない。だから自分は商売が向いていないと思う。

自分が否定されいると拡大解釈することもある。それは認める。でも、それ以上に嫌なのが、客の不快感が自分に伝わり、心のなかで、まあそう思うよね……と考えながら話を進めなければならないのが嫌なのだ。

だから、営業中は「僕は間違ったことをしている」という、良心の部分が侵される。

それは僕の決めつけだ、妄想だ、相手の感情は相手のものなのに、勝手に妄想・想像するのは失礼だ……と何度思ったことか。しかしそれでも伝わってきてしまう(妄想してしまう)から手に負えない。

 

共感性が高いと、相手のしかめっ面や態度に対して注意を払ってしまい、自分がやりたいこと、あるいは業務上やらねばならないことをすっ飛ばし、早く終わらせたいということになる。

友人や家族相手なら、ちょっとしたしかめっ面、ため息、不快感、苛立ちなどを感じると、その状態を解消しようとして、「何かあった?」とか「なんでイライラしているの?」と言う。お察しの通り、更に相手は苛立ち、事態は悪化するのだ。

そういう経験をしたことがある人間は、営業にならないほうが良い。

考え方を変えたら売上が上がった!という本はいくらでもある。十中八九ウソであるが、それがもし本当だったとしても、ネガティブな感情に敏感な人間は、相当に辛い業務であることは間違いない。

どうしても営業をしなければならないという状況なら、サイコパスになるしかない。

相手の感情?否定?しったことか。俺は売上をあげる戦士だ。俺の話を聴かないやつは馬鹿だし、俺の勧めを断るやつはクソだ。クレームはお客様相談窓口にでも任せよう。契約書でしっかり説明もしている。法律は守っているし、そもそも法令なんて流動的なものにこだわって売上が上がらなかったらどうする。何も問題はない。客の機嫌に一喜一憂する奴らは仕事を怠ける口実がほしいだけ。

アイ・アム・ナンバーワン・セールスマン。アイ・アム・ナンバーワン!

 

このように、自己愛性人格障害の一歩手前まで狂ってみよう。

客に商品を紹介するのではなく、断れないように誘導しよう。

ちなみに承諾誘導のテクニックは、僕のような営業苦手な人間でも使えるものが数多くある。僕はそれで64GBのSDカードを写真も撮らない人に売りまくった。でも怖くなって使うのをやめた。

必要な人は、『影響力の武器』を読むと良い。罪悪感を募らせながら、契約を獲得することができる。 

営業以外にも仕事はある。嫌なら心を壊す前に、やめよう。僕らには営業という仕事で給料をもらう資格がないのだ。

僕らの代わりになる優秀なサイコパスは、いくらでもいるんだから。

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