平沢進『SIREN』―優しいサイレン
夕暮れ時に聞きたくなるアルバムは何ですか、という日常ではまず聞かれないだろう質問を、自分で作って答えてしまいましょう。
目を引く赤、意味深なポーズで映る人間味の無い頭をしたおそらく人っぽい何か、その下に小さく黒いゴシック体でSIREN SUSUMU HIRASAWA……。
ファンだからこそ、このジャケいいよな~と思うわけですが、改めて見ると、オシャレな感じというよりは、普通に怖いなこれ。
夕暮れ時に1曲目の「電光浴-1」から最後の「Mermaid Song」までを、一気に聞くというのが僕のよくやる聞き方です。
ところでなぜ、夕暮れ時に聞きたくなるのか。
これは単純で、夕暮れ時になると街のサイレンから「夕焼け小焼け」なりが聞こえてきて、「5時になりました。外で遊んでいる子どもたちは、お家に帰りましょう」とかなんとかアナウンスが流れてくる、アレのせいだと思います。
僕の地元では時刻を告げるもの、チャイム、鐘から転じて(かはどうか知りませんが)「帰りの鐘」なんていいますが、鳴らしているのはサイレンですね。そこと結びついているのかな、という。あとはジャケットの赤、イメージビジュアルのオレンジなど、視覚情報に引っ張られているということもあるやもしれません。
1曲目の「電光浴-1」から2曲目の「サイレン*siren*」には、所謂「帰りの鐘」ではなく、非常時を告げる「ゥウ~~」という、あのサイレンの音がサンプリングされています。
一度、ゥウ~~というサイレンを地元で聞いたことがあって、とてもびっくりしたのを覚えています。少しトラウマになっていました。
僕でなくても、3.11以降、あのサイレンの音でどうにも心がざわつくという人は多くなってしまったのではないでしょうか。
SIREN キリが晴れるよ
SIREN 街をあげで
人づてに届いた祈るような歌を
たった たった今胸に抱き
SIREN キミが生きるよ
SIREN あとわずかでSiren*サイレン*2番より
これは僕の場合ですが、この楽曲を聴いてサイレンが少しだけ怖くなくなりました。
彼の楽曲の中で鳴るサイレンは、非常時を告げるような、つんざく、尖ったものではなく、丸みを帯びた優しい呼び声のようなものに聞こえます。それは音の処理の仕方なり、穏やかな雰囲気のオケの中で使われているからそうなるのは当たり前だ!なんて言われたらそれまでですが。
SIRENというアルバムはこの楽曲以外にも魅力満載です。
アップテンポな楽曲と、優しめの楽曲のバランスも良く、一つのアルバムとして完成されているなと贔屓目抜きにして思います。
平沢さんあんま聞いたこと無いけど興味ある!という方は最新作の「ホログラムを登る男」もしくは「救済の技法」というアルバムをおすすめしてますが、SIRENでデビューもいいんじゃないかと最近思います。