中野テルヲはいいぞ
中野テルヲさんは平沢進さんがフロントマンだった「P-MODEL」というバンドに所属していたミュージシャン。ベーシスト。ソロデビューは『User Unknown』。ニューウェイブ、ポップス、ジャズなどを取り入れた独自の音楽性で注目されている55歳(2019年5月現在)。
メガネの似合うナイスミドル。
ストリーミングサービスで楽曲が聴けるレーベルに所属していないので、CDを購入するしか無い……というわけでもないか。公式You Tubeで楽曲が何曲か聴ける。
人気曲の『Let's Go Skysensor』がそのひとつだ。
SONY製ラジオ「スカイセンサー」をフューチャーした楽曲で、実際にライブでも、ICF-5900という型番のスカイセンサーを使う。ライブでは音以外の視覚的な工夫も凝らされている。音に合わせて光る電球を使ったり、モノクロを基調とした現代アート的な映像がスクリーンに映し出されたりする。楽曲で使うサイン波の音はわざわざ音響用の発信装置を使っているため、その波形がリアルタイムに表示される。オーディエンスを飽きさせない。
動画冒頭で空を切るテルヲチョップをしているが、これは元P-MODELの高橋芳一さんが制作している自作楽曲群『Under Techno System』通称:UTSの演奏方法のひとつ。Wikipediaではこれを「手刀奏法」という言葉で説明しているのが面白い。
LONG VACATIONの後期に、関わりのあったナイロン100℃という劇団の芝居の中で使い始めたのが最初ですね。超音波センサーを手刀で斬ることで、音が出る仕組みになっています。
引用元:「JUNGLE☆LIFE 中野テルヲ」https://www.jungle.ne.jp/sp_post/%E4%B8%AD%E9%87%8E%E3%83%86%E3%83%AB%E3%83%B2/
(2019年5月27日閲覧)
彼のライブは、まるでひとつの音楽実験場。音色や曲構成、パフォーマンスは実験的である。最近はこれに加えてCDJや、バイノーラル録音マイク(ダミーヘッド)、つまみを弄り倒すことでシーケンスやピッチや電球の光具合を調節できるUTSが加わる。楽曲の核はポップス。歌詞もあるし、メロディアスだし、歌声もオートチューンがかった処理にマッチした爽やかな声。噛めば噛むほど味が出る、スルメ中のスルメアーティスト。
マイファーストテルヲは、2011年『Signal/Noise』。もう8年前なんだね。
時系列で追っかけたかったんだけど、この頃はソロ1枚目の『User Unknown』がすでに廃盤に。ライブでちょくちょく出していた手焼きCDなんて、初期のファンしか持っていない。当時はメルカリもなかったので、とりあえずここから入った。
聴いた後にこれはヤバイと思い、確かレコ発ライブだったと思うんだけど、それに行ってさらにヤバイと思った。今までの音楽体験の、どれとも違う。
この頃のキャッチフレーズは確か「サイン波の魔術師」だったと思う。確かに楽曲にもサイン波を使いまくっている。太いサイン波の音に、ヒップホップ的なローファイなビート、存在感が半端ないブルガリアンボイスのサンプリングによるコーラス、スカイセンサーのチューニング音、MIDI音源感バリバリのストリングスやピアノ……これらが混ざり合う事によって、不思議な一体感が生まれて、とにかくすごい。
1曲目『エクステンデッド湾~リターン小道』は曲名から楽曲が想像できないし、実際全く想像できない音が飛び込んでくる。これマジで1曲目?ってくらい落ち着いている。でも、最後まで聴いて欲しい。後半の静かな盛り上がりは、導入としての威力がすごい。次の曲どんなだろう?と思わせる力が、どのアルバムの1曲目よりもある気がする。
2曲目の『現象界パレット』だけでお釣り来ると思う。このアルバムの中で一番好き。まずポップで、なんか可愛い。メロディアスで聴きやすい。誰かに勧める最初の一曲で、『現象界パレット』か『Let's Go Skysensor』と迷う。You Tube公式に現象界パレットあるから、これもちょっと、ちょっと聴いて欲しい。ちょっと最初テルヲさんCDJで遊び過ぎてるけど。
7曲目『Pilot Run #4』は好き嫌い分かれるだろうけど、エレクトロニカに寛容な人は絶対イケる。平沢さんは『ベルセルク』のメディアミックス作品のために書いた楽曲『Sign』や『Aria』などで、ヨーロッパ的な造語を使っていた。この曲でテルヲさんは、「よいやっけー」「おいえっとーさぎょーはーはい」など、どこかの方言かと勘違いするような日本的発音の造語、ジャキジャキしたシンセ音、休符で攻めるような隙間のある曲構成というような、独自の世界観を構築する。
最高ですね。
どの時代のテルヲさんも手っ取り早く聴きたいゾ!という人は、最上部にある『TERUO NAKANO 1996-2016』がオススメ。収録漏れもあるけれど、レア音源だったものまで、丸っと手に入る。
最近のテルヲさんは音楽的にもより生っぽく、歌詞もマシン的デジタル的な世界観が、だんだん人間目線に近づいているような感じもある。「マシンが意志を持つ」系のSFが趣味にぶっ刺さる僕としては、テルヲさんもそういう意味で楽しめている。超いいよ。おすすめよ。
蛇足:ソロ名義アルバム音源羅列
廃盤。P-MODEL時代のテルヲ曲、『Call Up Here』のセルフカバー版が入っているので、ベスト盤が出る前は本当に欲しかった。かつてお茶の水にあった貸しレコード店「ジャニス」で借りて音源を手に入れたのは、いい思い出です。音色的にはエレクトロニカな感じだけど、使ってる音は優しめ。落ち着いた楽曲多し。
「続Signal/Noise」の印象が強いのは音使いのせいかも。Signalが好きならこれも自然に聴けると思う。『グライダー』『宇宙船』『フレーム・バッファⅡ』など、人気曲多数収録。曲数は少なく7曲なのに、アマゾンでは『Signal/Noise』が安くなっているせいか、値段の逆転現象が起きている。(2019年5月現在)
クソほど音が良い。多分マスタリングが一番纏まっていて、迫力あるアルバム。金属的でインダストリアルな音が増える。このインタビュー記事でも触れている通り、テルヲさんのルーツはどうやらパンクらしい。パンク魂が再燃したのか、攻撃的な楽曲も多い。もともとパンクロックっぽかったP-MODELに惹かれたのもそういう所が原因かな。P-MODEL時代のテルヲ曲『サンパリーツ』のセルフカバー(かなり良い)、「スターリン」の『ロマンチスト』もカバーしている。
このアルバムで「あ!俺こっちの方向に行くわ」って感じでガラリと様子が変化する。エレキギターが多用される。タイトルからも分かるように、ジャズ要素もたっぷり。生っぽくなったけど、今までのテルヲファンも安心して。サイン波はまだいるよ。分かりやすくポップになった印象。この頃から、脱P-MODEL感が凄い。ド頭1曲目『Ticktack』では、テルヲさんのラップが聴けるぜ。半端ねぇ!
現時点最新アルバム。変拍子が好きな変態や、ちょっと人が聴いている音楽とは違う曲を聴きたいサブカルボーイ&ガールに最適。『Nocto-Vision For You』に痺れよう。shampooの折茂昌美さんとユニットを組んだときの楽曲『3rd』が別バージョンで収録されていて、べらぼうに格好よし。前作のような分かりやすさはあまり無い気がする。入り口ではない玄人向けな雰囲気があるけれど、テルヲサウンドの核(といえばサイン波やローファイなビート)は外さない。
おまけ
- アーティスト: LONG VACATION,Les LONG VACATION,KERA,中野テルヲ,音羽たかし,UEISHI OSAMU,中村哲夫,中野哲夫
- 出版社/メーカー: ファンハウス
- 発売日: 1995/04/26
- メディア: CD
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夏はTUBEもいいけどロンバケもね!