点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

何かを断つことについて

 母が断酒してもうすぐ1年になる。

 断酒に成功してから、しきりに断酒の効能について、僕に話してくれるようになった。僕は医者から禁酒を言い渡されたので今は飲んでいない。たが、もし医者から、もう酒を飲んでも良いと言われるようになっても、よほどのことが無い限り酒を口にすることは無いと思う。これは母のおかげであるように思う。

 もともと、アレン・カー著『禁酒セラピー』という本を読んでから、飲酒量も減っていた。そこにうつ病が重なって、「飲酒はダメ」ということになった。しかし、それまで家でも酒をあまり飲んでいなかったから、別段酒が無くてもストレスがない。眠れないときに酒の力に頼ろうかとよぎったこともあったが、踏みとどまれた。

 また、酒を飲むと読んだ本の記憶が薄まるので、僕の趣味と酒は非常に相性が悪いことに気がついたのも、酒を求める気持ちにならない大きな要因であると思う。

禁酒セラピー [セラピーシリーズ] (LONGSELLER MOOK FOR PLEASURE R)

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 ところで、大酒呑みの父も1ヶ月限定で禁酒をしはじめた。父は自分が納得したことならば鋼の意志の持つ人のようで、やめると言った日からピタリと酒をやめている。結果、すこぶる体調が良いらしい。

 どうして酒をやめたか。

 父は酒をいくら飲んでも二日酔いになることは無かった。しかし、最近は寝ている最中にトイレで何回も起きてしまうようになったり、それがたたって熟睡ができなくなったりしていたらしい。泥酔して居間で眠ってしまうことも増えていたらしく、そうした状況が嫌になったというのも、禁酒を決断した要因であるとも言っていた。

 まず1ヶ月限定で禁酒してみて、調子が良ければそのまま継続しようという計画だと言う。僕がみたところ、父は本当に一滴も酒を飲んでいないように思われる。身内の自慢になってしまい恐縮ではあるが、この意志の強さには驚く。おそらく、このままの勢いで、断酒状態になりそうだ。

 僕が子どもの頃、父は前述のとおり大酒飲みだったし、ヘビースモーカーでもあった。度数の高い缶チューハイや、焼酎の梅シロップ割り(我が家ではバクダンと呼ばれていた)などを好んで飲み、いい気分になりながら21時には就寝していた。酒癖が悪いわけでもないから、誰も飲酒を止めなかった。タバコも換気扇の下やベランダで、蛍を口元で飼っているかのように、頻繁に吸っていた。本人曰く、1日平均で2箱ほどは吸っていたらしい。

 子どもでも酒とタバコは身体に悪いという知識があったので、そのことを父に指摘したことがあった。しかし父からは

 「息子よ。父ちゃんにとって酒とタバコは、お前にとってのテレビゲームと同じなのだ」

 と反論された。

 根っからのゲームっ子であった僕は何も言い返すことができなかった。当時テレビゲームは今でこそ悪名高き「ゲーム脳」論によって、ゲームをするとバカになると言われていた時代であった。やればやるほど、身体に悪い。外で遊ばないからどんどん太る。でもやめられない。やめるなんてとんでもない。これがなければ僕ではない。

 なるほど~と納得した。

 僕は当時、ゲームをやりすぎた結果バカになっても良いと思っていた。きっと父ちゃんも同じく、酒やタバコをやりすぎて病気になっても、潔く認める覚悟があるのだ。という具合で、謎に感動したりしていた。

 今思えば、ただ僕が純粋に言いくるめられていただけなんだろうけど。

 父はすでにタバコもやめている。値上がりが理由であるとしているが、どうやら健康上にちょっとしたトラブルがあったらしく、それも重なってやめたのではないかと思う。僕が大学在学中に禁煙外来に通っていたらしく、まだ学生の頃、久しぶりに実家に帰ってみると、母が嬉しそうに「父ちゃんがタバコをやめた!」と教えてくれた。

 酒とタバコはやめないと言っていた人が、こうもスパッと、ある日突然やめられるというのは珍しいことではないか。僕はまだ、いろいろやめられそうにない。最近までゲームやってなかったのに、また格ゲーという趣味を見つけてしまったせいでゲーマーに戻ったよ。

 僕も「断つ」ということに対して強い遺伝子を受け継ぎたかった。残念ながら、僕は自制することにかけては人並み以下の能力である自信がある。それは現在の体重が100Kg目前であることが証明である。甘いものを見れば食いつき、清涼飲料水を飲み干し、満腹になってもついつい口に食べ物を運んでしまう。デブの習慣がインストールされているのだ。必死にアンインストールの仕方を探しているが、未だに感情のコントロールパネルが見つからない。

 「断つ」ことに対する強さを身につけるには、まだ時間がかかりそうだ。