点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

無くし魔の考察

財布を無くす

財布を無くした。これで人生3度目である。1度目は高校生、2度目は1回目の大学4年生、そして3回目は昨日の出来事である。

キャッシュカード、定期券、保険証、現金6000円が入った、黒の長財布だった。ズボンの尻ポケットの中に入れていた。マイナンバーカード以外のすべての重要書類を失った。免許は取得していないので、そもそも無い。一番便利な身分証を不取得という縛りプレイをしている僕にとって、保険証の紛失はとても痛い。

無くした経緯

僕が勤めている書店は、スタッフも客が使うトイレを利用することになっている。朝、雑誌の品出しをしている最中、自慢の渋り腹が海鳴を上げ、猛烈な腹痛が襲いかかり、トイレへ駆け込んだ。

尻ポケットに長財布を入れている人間ならわかると思うが、ポケットにいれたままズボンを下げると、財布がポケットからずり落ち、財布と汚い床が結婚することになる可能性があるので、荷物置きにちょっと乗せたりする。

長時間の格闘の末、トイレから出た。

それから約3時間後の昼休憩、近くのスーパーへでかけようとすると、無い。右尻ポケットにぬくもりと重量感を感じない(僕の財布は小銭がジャラジャラしているので、重いのだ)。やってしまったと気がついて、交番に直行。たいして預金残高の無いキャッシュカード類を停止にして、職場の上司から1000円を借り、帰宅し、眠るまで自分のバカさを呪っていた。

根っからの無くし魔

実はトイレに長財布を置いてしまうというこの行為は、書店に勤め始めた約半年前から、すでに4回ほどやらかしてしまっており、その都度交番に世話になった。

過去4回は交番や、書店が入っているビルの管理会社の手に渡っていた。今回はどうやら持ち去られたらしく、警察には届けられていない。このとき、「ああ見つかってよかった」と安心して、対策を真剣に練らなかったのがいけない。

ただ、無対策だったわけではない。

僕は無くし魔だ。2年前にはキャッシュカードを無くし、その口座の印鑑も無くしていた。重要なものほど無くす。どうでもいいものはいつまでも家にある。常日頃、何かを無くしては、必要な時に物を用意できずにテンパる。27歳にもなってこの体たらくではいけないと、「決まった場所にものを置く習慣」を身につけようとした。

今までの対策

家につくとリマインダーの通知で「決まった場所に鍵と財布をしまう」という内容の通知を出したり、必ず触れる場所に張り紙をしたりなどしたが、通知に気が付かなかったり、張り紙を見ても面倒臭がって定位置にしまうことをおろそかにしたりして、結局現在まで「決まった場所にものを置く習慣」は身についていない。

意志の力だけではどうにもならないと、様々なアプリを試してみたが、続かなく、挫折してしまった。

僕は財布を荷物置きに置いてしまわないように、毎朝確認するGoogle Keepに、「財布をかばんにしまうこと」とメモをしてピン止めをしておいた。朝、その日の不安をKeepにぶちまけるという習慣を続けているから、必ず毎日見る。

しかし、今までさんざん張り紙や通知で効果が無かったのに、どうしてそれで大丈夫と思っていたのだろう。メモを見たときに財布が尻ポケットに入っていたとしても、そこからかばんに入れるのすら「面倒くさいから後でいいや」となってしまうような人間である。結果見事に財布を無くした。

なぜ人は忘れるのか

物を無くすということは、その物をどのように処理したかを忘れるということだ。では、物忘れはなぜ起きるのか。

短期記憶の忘却のメカニズムで支持されているのは、ケッペルとアンダーウッドの実験だ(Keppel & Underwood. 1962)。結論から言うと、この実験は、短期記憶の減退は順行性干渉に依るところが大きいことを示した。それまで通説だった時間経過ではなく、情報の干渉が記憶に大きく作用するとした。

僕が財布を無くしたシーンを見ると、無意識のうちに荷物起きに財布を置いた弱い記憶が、腹痛によってかき消された。朝礼前だったので、それにも間に合わないかもしれないという焦りもあった。記憶しておくべき情報に上塗りされる出来事や情報が認知されてしまうと、時間経過による記憶の減退よりも、大きく記憶を削り取る。

この理屈でいうと、2つ対策が考えられる。短期記憶を削る干渉を減らすか、干渉に強くなるかである。残念ながら人間の脳は、短期間で記憶できる情報の塊(チャンク)は、4±1の範囲であることが分かっている。*1

干渉に強くなったとしても限界があるだろう。なので、干渉を減らす、干渉が少ないうちに処理をするということが重要になってくる。

対策の方向性は薄々気がついていたが、やはり「先延ばしグセ」を改善することと見て良いと思う。財布に限っては、例えばカード入れと現金入れを分けるとか、外出時にも定位置を決めておくなどの対策があるだろうが、根本が腐っているので、それすら面倒くさいと思ってしまい、先延ばしにして、実行に移せないようでは元の木阿弥である。

先延ばしを無くすために

「先延ばし改善」や「すぐ行動する」系の書籍群はゴミの山だが、この書籍に関しては参考になった。

先延ばしの原因は複数あるが、僕のケースに関係ありそうなのは、衝動性だ。衝動性が高い、つまり周囲の誘惑物に対して心が動かされやすい人ほど先延ばしにする傾向があるという。人間の脳と現在の社会システムの相性の悪さ(先延ばしが起こりやすいカルチャーになってしまっているという論調だ)が書かれているが、それを嘆いても仕方がない。

対策としては、誘惑物を避ける工夫をすること、目標を細分化して実行しやすくすることである。

これは僕が読んだ複数の先延ばし改善本に5億回くらい書かれていることだ。当たり前のことだ。しかし、これ以上マシなことが書いてあるものが無かった。

宇宙にオーダーすれば、はたまた瞑想をすれば、先延ばしグセが治ればいいのに。1秒で治ってほしい。しかしそんなうまい話は無い。成長できなかった衝動的な人格は、今まで生きてきた時間分くらいかけて治すぐらいの気力が必要かもしれない。言語で伝えられる情報において、画期的な先延ばし改善術というのは存在しない。

地道に治していくしかない。

とりあえず手のつけられるところから。

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*1:Nelson Cowan (2001), The magical number 4 in short-term memory: A reconsideration of mental storage capacity