点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

『新釈 走れメロス 他四篇』──プレゼントしたい森見登美彦

今週のお題「プレゼントしたい本」

新釈 走れメロス 他四篇 (祥伝社文庫 も 10-1)

新釈 走れメロス 他四篇 (祥伝社文庫 も 10-1)

 

大学1年生の頃、社会学部のゼミで行われた「プレゼンテーション」の講義で、5分間の読書レビューをしようということになった。さて、本と言えばハリーポッターシリーズしか読んだことのなかった当時のAchelouである。読書レビューの準備の課題が出されたその日のうちに、なんとかハリーポッター以外の書籍を獲得し、5分間を駆使して、魔法世界にうつつを抜かした童貞ボーイだと思われぬようにと書店へ赴いた。その時、手に取ったのが森見登美彦の作品、『新釈 走れメロス 他四篇』である。これが、薄いようで深く、くどいけれどさわやかで、独特な文体とは裏腹に、ベースは京都を舞台とした青春ファンタジー森見登美彦作品にどっぷりはまるきっかけとなった本だ。

森見登美彦と聞けば思い浮かばれるのはアニメ化もされた『四畳半神話大系』だろう。アニメ化されたのだから森見登美彦作品を小説で読むのなら、この作品から入ろうとする人も多かっただろうが、実はそれほど初心者向けではない。まず『四畳半神話大系』は、長い。しっかりと小説を読みこなした人向けの文量だし、普通の小説にはあまりない「ループ」というトリックがあって、なかなかつかみにくい作品だ。アニメを観て、原作が気になったので読んでみたが、挫折した!という人もいるのではないだろうか。

僕が森見さんを人にオススメするとき、決まって紹介する入り口の3冊がある。『夜は短し歩けよ乙女』『太陽の塔』そして何と言っても、『新釈 走れメロス 他四篇』である。前2冊はそれほど長くはないが長編、今回この記事で紹介したい『新釈 走れメロス 他四篇』はタイトルからも分かる通り、短編集だ。だからサクサク読める。しかも、「近代文学の名作たちを、敬意を込めて森見風にアレンジする」という面白い試みで、『山月記』『藪の中』『走れメロス』『桜の森の満開の下』『百物語』の5作品が収録されている。本屋でブックレビューする本を何にしようかと品定めをしていた僕の心は、第一篇『山月記』によって奪われたのである。

 京都吉田界隈にて、一部関係者のみに勇名を馳せる孤高の学生がいた。
 その名を斎藤秀太郎という。 

山月記の主人公、博学の英才である隴西の李徴と比べると、なんともスケールの小さい界隈で勇名を馳せ、さらにその場所において孤高と評されるとは、これいかに。ギャップだらけのこの一文が、僕と森見作品との出会いであり、間違いなく面白い作家さんなのだと確信した僕は、後の文章を読まずに、そばに置かれていた『夜は短し歩けよ乙女』と一緒に購入した。

おすすめは第1篇『山月記』と、第3篇『走れメロス』。この2つはギャグ満載。主人公のことをおちょくるような描き方といい、テンポといい、暇な時にちょっと一口という具合に楽しめる長さといい、大変に好み。『走れメロス』は本書随一のテンションの高さ。「友人のために走る」という原作からかけ離れ、「友人なんてしらない、兎に角自分が逃げれば良い」というなかなかにクズな主人公芽野史郎と、彼を捕まえて罰ゲームをさせようと躍起になる図書館警察長官が引き起こすドタバタコメディになっている。書き出しだって、こうだ。

 芽野史郎は激怒した。必ずかの邪智暴虐の長官を凹ませねばならぬと決意した。
 芽野史郎はいわゆる阿呆学生である。汚い下宿で惰眠をむさぼり、落第を重ねて暮らしてきた。しかし厄介なことに、邪悪に対しては人一番敏感であった。

巻頭には森見版『走れメロス』のファン以外の人には特に不必要な、芽野史郎がどのように京都の街中を逃げ回ったのかという逃亡図がついており、これを見てから読んでみると、芽野史郎と図書館警察陣営たちの逃亡劇が、頭のなかでアニメのように、臨場感たっぷりで再生される。収録されているどの作品も、森見さんの魅力が存分に詰った短編だ。秋の夜長に読むのには幾分にぎやか過ぎるかもしれない。けれども秋は読書の季節。「今年の秋こそ読書三昧するぞ!」と意気込んでいる方々もいるに違いない。「面白い小説が読みたい」とか「何も考えずに笑えるような本が読みたい」という人がいたとして、こちらがお金を出すから、これ読んでみてよ!と言いたくなる作品は、この短編集に掲載されている作品の他には、あまり見当たらない。

 

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

 
太陽の塔 (新潮文庫)

太陽の塔 (新潮文庫)

 

 

角川からもイラストレータ中村佑介さんがデザインしたカバーで発売されている。芽野史郎逃亡図が収録されているかは未確認なので注意されたし。

過去記事です

 

achelou.hatenablog.com

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銭湯について

湯船の必要性

男が一人暮らしを長く続けていると、湯船に湯をはるなんてことは、面倒くさくってやらなくなることが多いと思います。少なくとも、僕の周りの一人暮らし男子は、湯船に湯をはるなんてことをやっている一人暮らし男性は希少です。と言いますのは、風呂自動が整った良い物件に住んでいるのが少ない。3点ユニットバス(便器、洗面台、湯船&シャワー)の家で、しかも追い焚きが無い、さらに洗濯機が残り湯に対応していないとなると、湯船を張るにあたっては、当人の心地よさしかなく、最初の一週間をシャワーで乗り切ってしまうと、その後もシャワーで生活するという習慣がついてしまうものです。

湯に浸かる、という習慣はテルマエ・ロマエで描かれたように、古代ローマの時代から受け継がれてきたリラクゼーションの手法であり、日本のように水資源が他の国と比べて潤沢とされている国では、「湯に浸かる文化」は広く国民に知れ渡っています。欧米化著しい時代を経てもなお、銭湯、温泉というものは未だに消えず、ビジネスとしてどれほど繁盛しているかは定かではないですが、ある程度は成立していますよね。個人単位では消失しつつある(とは言い切れませんが)「湯に浸かる」という習慣は今後も日本に残るのではないかというような漠然とした予想は、日本人なら誰でも容易にできるのではないでしょうか。

 

Achelou、数カ月ぶりに湯船に浸かる

新しい職場の雰囲気にも慣れまして、仕事を頑張って覚えているところですが、多少の気疲れと、立ちっぱなしによる足の疲れが出ておりまして、これが中々取れずにおりました。疲れた~疲れた~と呪文のようにつぶやいておりましたところ、彼女様から「銭湯に行こう!!」という名案を賜りまして、行ってまいりました。

基本料金は460円。フェイスタオルとバスタオル、どっちも持っていけば500円しない料金で、多彩な湯船とロビーにある1万冊はあろうかというマンガが読み放題、レトロゲームの筐体は100円で3プレイという、非常にAchelou的においしい銭湯でありました。銭湯について詳しく語りたい気持ちもありますが、それはまた追々。

で、今回の記事で何を伝えたかったのかというと、湯船に入ると本当に疲れが取れるということでございます。全国の「シャワーで良いや派」に伝えたい。シャワーじゃあかん。湯に浸かるということで、ここまで疲れが取れるとは思いませんでした。肩、腰、足にドドドーっと水流を発生させるジェットバスがあったのと、本当に久々に湯船でゆっくりしたからかもしれないけれど、心身ともにリフレッシュできました。ユニットバスで追い焚きなくてもいいから、湯船に湯を張って、何も考えずにボーッとする時間は必要だなと感じ、週1で通えたら通いたいくらいに、ころっと湯船、銭湯に惚れ込んでしまいました。

 

 

寝付けない人にもおすすめ

「湯船 健康 効果」で検索をかけるとライフハック系サイトからしか湯船の健康的な効能を知ることができませんでしたが、「夜ぐっすり眠れる」という効果があります!ということが書いてあるサイトは多く見受けられました。で、実感としてこれはありました。夜眠れないと感じている人は、是非湯船に入る習慣を身につけてください。他には汚れが取れる(目に見えない)、痩せる(すぐに痩せるわけ無い)、デトックス効果がある(怪しい)などなど、信用に値する、または実感できるものが少なく、あったらいいね……程度にしておきます。

最近なかなかボーッとする瞬間が寝る直前しか無く、意識がはっきりしている時間帯に、思いっきり何も考えずボーッとするということは至福でありました。湯船に入ってボーッとし、のぼせないように露天コーナーの椅子でボーッとし、また湯船に入ってボーッとする……という入り方をして40分ほど満喫しました。ボーッとしたことで何かいいことがあったか?というと、落ち着けた、リラックスできた、疲れが取れた以外、別段いいことは感じられません。「頭がクリアになった!」とか言ってしまうと、怪しげなニューエイジっぽい考え方を持っていると思われかねませんからね。

自分が住んでいる周辺の銭湯めぐりとか、やろうかしら。

 

過去記事です。

achelou.hatenablog.com

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図書館に行けば行くほど、本を買いたくなる

図書館は経済的?

本を購入するときって、ものすごくワクワクすると思います。どんなことが書いてあるだろうという気持ちで家に帰る、はたまた、待ちきれなくって近くの喫茶店に入って安いアイスティーを頼み、喫茶店の人には悪いけれど、何冊かの本を何時間もかけて読みふけってしまうなんてことは、頻繁にあるわけです。しかし、そんなことは、ひと月やふた月に1、2度できれば良い方で、新しい本をどっさり買い込んで読みふけるという贅沢なことは、なかなか出来ることではありません。

そこで思いつく方法というのが、図書館なわけです。自治体が管理する図書館の多くは、貸出ができ、本を持ち帰ることができます。僕が住んでいる地域の図書館は、1度に10冊まで借りることができます。10冊の中でローテーションをしていくのですが、何十冊に1~2冊の割合で、「これは当分返したくない」とか、「是非自分のものにしたい!」というような本に出くわすことがあるのです。

最近では、小室直樹の書籍なんかで絶版になっている『論理の方法―社会科学のためのモデル』や、こちらは絶版になってはおりませんが、『日本人のためのイスラム原論』『日本人のための宗教原論―あなたを宗教はどう助けてくれるのか』、リチャード・ドーキンスの『神は妄想である―宗教との決別』などは、分かりやすく刺激的で、読んでいて面白い上にためになるな、と個人的には思うわけです。そういう本は、本棚に是非とも飾っておきたいという心が生まれてしまいます。

それから、『世界の名著シリーズ』などの古い本は、中古市場でも出回っていることが、ものによっては少ないため、実際に手にとって読んでしまうと、「これは……オークションを活用して、是非全巻揃えてみようか」という具合に、節約のために図書館を利用しているつもりが、かえって、財布を傷めつける決心が固まってしまう事態につながることがあるのです。

日本の最も美しい図書館

日本の最も美しい図書館

 

図書館にある本が欲しくなる

読書という趣味は、金をかけようと思えばいくらでもかけられ、逆に、節約しようと思えばいくらでも節約することができるものです。僕は、読書は娯楽であり、楽しければ何でも良い、とは思っておりますが、自分が「ここが凄い!面白い!」といったページには印をつけたり、端を折ったりしたくなるたちなのです。

印をつけたり、ページの端を折ったりすると、読み返したときの体験が薄くなる、というように思う人がいるのは知っていますが、僕の場合は「そうそう、ここここ。いいよね。」という具合で、たとえ印やページの端が折られていたとしても、それなりに楽しむことができる、都合の良い脳みそを持っているらしいのです。ですから、図書館で本を借りたとき、うっかりページの端を折ってしまいそうになったり、どうしても覚えておきたい知識などをノートにメモをした時に、ペンを持ったまま本を読んでいると、危うく本に印をつけてしまいそうになったりもします。「うわっ!危ない!」と思ったことはかなりあります。

運良く、そうした癖で本を傷つけたことは、今のところ無いのですが、その時に思うのが「やっぱ本は購入したいよなー」という欲求なのです。または、自分以外の誰かが、既に間違えて蛍光ペンなどで、図書館の本に印をつけてしまったりすることがあって、それを見つけてしまったりすると、ここでもやはり、自分の持ち物として、この本を自分の好き勝手に読みたい!という欲求が、ふつふつと湧き上がってくるのです。

世界の夢の図書館

世界の夢の図書館

 

図書館の活用法とは

以上のような心理が働くものですから、僕は読書にお金をかけない、という方針は、とっくのとうに諦めてしまいました。しかし、だからといって、やたらめったら書店に赴いて、自分のレーダーに引っかかる本を片っ端から購入することは、現段階では敵いません。そういうことができる大人になってみたいものですが、どうあがいたって現在の経済状況ではムリです。

わびしい話ですが、どうせ購入するのであれば、本は選んでおきたい、というのが正直なところです。ですから、図書館で本を借りるときは、もちろん、普通に楽しむために好きな本を借りるために行くのですが、第2の目的としてあるのは、「買いたい本を選ぶ」ために行ったりしています。本屋などで、以前記事にした「クソ読書」によって、買うべきか、買わざるべきかというものを判断することもできますが、ゆっくり本と向き合うには、いささか雑な読み方ですし、「じゃあゆっくりと立ち読みをしよう!堂々とやろうぜ!」というのも、お店に迷惑がかかってしまいます。

図書館の良い所は、やはり、一度に10~15冊ほど、自分の気になった本を、とりあえず引き取ることができるところでしょう。図書館じゃ眠くなっちゃって仕方がないという場合でも、場所を変えたりすることができます。喫茶店に場所を変えて、浮いた図書購入代でもって、アイスティーをフラペチーノに買えることもできます。面白い本に出会うとき、お金に余裕があるならば、そりゃ、新刊を書店で購入していく方法のみで、あらゆる本と出会いたいけれど、それがムリならば、やはり本との出会いの場というのは、僕にとっては図書館になってくるのです。図書館で借り、じっくりと読み、購入したくなった本は数知れず。Amazonのほしいものリストが増えていく一方で、なかなか買えてはおりませんが、これからも上手に付き合っていくつもりです。

美しい知の遺産 世界の図書館

美しい知の遺産 世界の図書館

 

 

 

achelou.hatenablog.com

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