点の記録

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世界十五大哲学──歴史を知ることは遠回りではない

世界十五大哲学 (PHP文庫)

世界十五大哲学 (PHP文庫)

 

 本書は哲学史の本である。本書を読めば、哲学史の基本の部分が分かるように設計されている。僕自身が入門本をめちゃくちゃ読んでいるわけではないので、僕がおすすめだ!と言うのでは説得力が無いかもしれない。一応、博覧強記の佐藤優氏も推薦文を出している。彼を信頼している人は、読んでみるといいかもしれない。ちなみに僕がこの本を知ったきっかけは、なんとアンチ佐藤氏な友人からのおすすめだった。

教養を身につけるべし!という世の中になってきてる。なかでも哲学は教養の代名詞のような扱いを受けている。そもそもなぜ哲学を勉強する必要性が出てきている!と騒がれているのか。もちろん本を売るために危機を煽っているからという理由もあるかもしれないけれど、どーせならそれ以外で考えたい。

哲学を志す人の最終的な目的は、自分の哲学を展開するところにある。要するに、「自分で新しいことを考える」ことである。

しかし、新しいアイディアや哲学をすべて自分の体験や経験から展開しようとしたりすると、なかなか難しい。では「自分で新しいことを考える」ためにはどうすればいいのか。色々経験だ!という意見もあるかもしれないが、学問においては文献研究が王道だ。過去の研究者の意見を自分の血肉にしておいたほうが、自分で生み出す考えが深まる、というのは本書の序文でも語られている。

どのような人間も、そしてどのような問題につても、過去の事柄を無視しては、新しい創造にむかうことはできない。(中略)過去の専門的な哲学の業績をふまえることをしないで、自己の中に哲学を求めることは、蚕が桑を食むことなくして糸を吐こうと努力するほどに、むなしい営みである。

序ー13頁

本書は二部構成だ。

第1部では、まず哲学思想史をざっくりと、古代から現代まで解説する。

第2部では、思想史に大きな影響を与えてきた哲学者15人の考えを基礎的な部分に限定して説明してくれている。

この本を出発点とすれば、現代哲学や思想を理解する上で必要な基本的な知識をさらえるようになっている。

個人的におすすめしたいポイントは、哲学の歴史全体をざっくり理解することで、第2部がよりしっかりと理解できる点だ。

どういう時代背景から、どういう考え方が生まれていったのか、あるいは、どういう議論から、どういう世界観が作られていったのか……という知識がないまま、「この人はこういうことをいってたよ」と書かれても、「で?」となるだけ。哲学者一人ひとりを懇切丁寧に解説している入門本もあるけれど、まずは全体をざっくりと理解するというところでは、歴史に目を向けてみると良いという気づきも得られる。

人間の思想というものは、その人間がどういう時代にうまれ、どういう環境に育ち、生活し、どういう意見から影響を受けたかによって大きく左右される。それらを抜きにして一人の哲学者の学説を理解しようとするのは、まさしく本書の言葉を借りるのであれば「蚕が桑を食むことなくして糸を吐こうと努力するほどに、むなしい営み」になってしまう。

これは、あなた自身が、新しい哲学やアイディアを生み出すときにも重要だけど、過去の哲学者という一人の人間を理解しようとする上でも、重要なことだと僕は思う。歴史に名を残した哲学者の生み出したアイディアは「むなしい営み」とはならなかったから今に語り継がれている。

「なぜその考えに至ったのか」を知ることは、遠回りではない。昔の偉い人たちだって、過去の情報を参照し、それを自分の知識や経験と統合して生み出しているのであれば、その源泉を知っておくことは、素早い理解への近道だ。むしろ周辺知識として理解を助け、記憶にも刻まれやすい。いそがば回れで原著よりも先に、ざっくりと本書の知識を入れておくだけで、哲学という学問分野の捉え方が違ってくると思う。

Kindle版もあります。

世界十五大哲学 (PHP文庫)

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