点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

『カラダの知恵:細胞たちのコミュニケーション』──細胞のコトバに思いを馳せる

はたらく細胞』を読んだことがある人は、すんなり読めると思う。これは『はたらく細胞』よりも以前に、細胞を擬人化して、細胞間のコミュニケーション手段に焦点を当て、解説している本だ。

著者の三村芳和氏は東京大学医学部准教授。専攻は内分泌外科で、もっというと「外科侵襲学」と呼ばれる分野の専門家だ。人が手術を受けたときや怪我をしたときの反応を科学的に分析する分野で、第1章はまさしく、「外科侵襲学への招待」と言っても過言ではない。

そもそも不思議なことだ。人間は有り体に言えば細胞の集まりであるが、どうして細胞の集まりである人間が人間足り得るのか。それは細胞間が何らかのコミュニケーションをとり、生命現象として統合されたシステムの中で動いているからだ。これを深堀りして、わかりやすく解説してくれているのが本書だ。

わかりにくい生理学用語や細胞の働きを擬人化しながら解説してくのは、先程挙げた『はたらく細胞』を文章で行っているかのようで、面白い。馴染みのない単語が続々と登場するが、「ああ、こいつは人間で言うとそういう役割なのだな」という経験的記憶と結びついて、どんどん細胞のことについて知ることができるのが良い点だ。

例えば、「リンパ球のホーミング」について。

本書を知るまでは知らなかった概念だった。考えたこともなかったが、このように説明される。

読者の皆さんは小さなころ、こんな経験がおありではないだろうか。

毎日、毎日、遠くの空き地で缶蹴りと鬼ごっこをしては陽の光が黄色く夕つき、お寺の鐘がこだまするまで遊んだことを。そして一目散に息せき切って飛んで変える。夢中になって空が火事のように赤くなるまで遊んでは「ただいまー!」と言って家へ帰ったことを。 (P.29)

身体は細菌などの侵入者に対して免疫システムを持っていることは周知の事実だ。ではどのように免疫をこさえているか?身体はこの問題に知恵を絞って、リンパ球を身体中に泳がせることによって解決した(もちろん、それだけではないが、この記事では割愛する)。リンパ球のホーミングというのは、つまり家に帰宅する子どものように、決められた道順でリンパ節という「家」に帰るという現象のことを指す。免疫は、細菌を食べた免疫細胞のホーミングによって作られる。

難点を上げるとするなら、やはり擬人化が難しいところがあるのか、要所要所では人体生理学もしくは科学の知識が無いと読みにくい箇所がある点だろう。しかしそんな欠点などお構いなしで、僕たちの細胞がどのようにコミュニケートしているかを俯瞰できる良書だ。文系にも勧めたい。

これとはたらく細胞を合わせることで、自分の身体に起きている細胞たちのコミュニケーションに思いを馳せれば、少しは自分の身体を労ってやろうという思いが出てくるだろう。生活習慣病の人や、生理学が苦手な学生が読むといいと思う。

 

はたらく細胞(1) (シリウスKC)

はたらく細胞(1) (シリウスKC)

 
はたらく細胞BLACK(1) (モーニングコミックス)