点の記録

点を線で結べない男の雑記帳

ADHDや「自分の不器用さ」に悩むあなたに寄り添う『発達障害サバイバルガイド』

CAUTION

この書籍に習って注意書きを書いておく。

あなたが発達障害の二次障害で、うつの底にいる場合、あなたがやることは「ただ休む」「横になる」ことである。ただ布団に寝そべりうつの底をやりすごすのは厳しいことだが、我々が抱える病の力はそれほどに恐ろしいものである。

それしかやれることが無いということは、裏を返せば、やるべきことをやっているのだ。

さらなる悪化を防ぐためにも、この書評にしては長たらしい記事すら読まず、ひらすらに休んでほしい。すこし元気を取り戻したら、紹介するこの本や、それを紹介しているこの記事を読んでみてほしい。

己を変えるのではなく外部要因を変えよ

僕は病気になってから、「できること」と「できないこと」を明確にしてこなかったように思う。「あれもだめだ」「これもだめだ」というやるせない無力感は、「過剰な一般化」思考という、うつ時の特徴的な認知バイアスであり、過度なストレスを生む。これを明確化することで、多少心にゆとりができるのではないか。

これは『発達障害サバイバルガイド』を読んで気がついたことだ。

本書は主に発達障害を抱えている人に向けて書かれているが、医師から発達障害の診断を受けていない、あるいは自分はグレーゾーンかもしれない、自分の不器用さに悩んでいるという人にも役に立つことが書かれている。

己を変えるのではなく、己が生きやすいように環境を整備せよ。

これがこの書籍のメッセージの核だ。

サバイバルとはよりラクに、より快適に、より優雅に生きられる環境を自ら作り上げていくことであると、本書では定めています。(P.10)

僕のライフハックのテーマは「自分を変える」のではなく、「やり方を変える」「環境を変える」「道具を変える」など、パーソナリティの外部にあるものを工夫することで変化を起こすことをモットーにしています。本書も、その考えを貫いて書かせていただきました。(P.314) 

自己啓発書は基本的に、ハード面である認知能力の欠損を問題にしない。もっぱらソフト面である心理状態の変革と、それに伴った行動をすることをお題目に掲げている。

しかし、心理状態とは認知能力に大きく影響を受けており、明確に切り分けることは困難だ。それをまったく別問題として取り上げる通俗脳科学的な書籍が世にあふれるさなか、自己改造ではなく具体的な環境整備の方向性を示す本書は、凡百なビジネス本にはない魅力を持っている。

本書の構成は大きく分けると8つに分けられる。

  1. 生活環境 サバイバルに絶対必須の設備ハック
  2. お金 貧困と借金から学んだマネーハック
  3. 習慣 くりかえしが苦手な僕らの365日ハック
  4. 在宅ワーク だらだらにかつ自宅作業ハック
  5. 服 おしゃれとか以前の身だしなみハック
  6. 食事 ズボラ完全対応版自炊ハック
  7. 休息 生き延びるための休日ハック
  8. うつ 不安とともに生きる再起ハック 

すべてを取り上げると記事として膨大になるし、著作権的にもアレなので、僕が特に参考になった第3章と第8章を中心に書いていきたい。

一元化、常時一覧化、省エネ

第3章は、忘れっぽく先延ばしがちな人間が使えるタスク管理に関するアイディアが詰まっている。”Hack11 「1日1箱」で習慣を固定化しよう”では、「エブリデイボックス」というアイディアを紹介している。

……小さな習慣を固定化していくのは案外簡単なことではありません。僕も気がついたらサプリメントを1週間飲み忘れていたり、もう20日も事務に通っていなかったりします。最後に参考書を開いたのはいつだったか思い出せないなんて、人生には本当によくあることですよね。

そこで、僕がおすすめしたいライフハックが「エブリデイボックス」です。これは、毎日の習慣のために必要なアテムを、ひとつの箱に入れておくというもの。(P.93)

このアイディアは、著者が服薬の習慣化を達成するために、バラバラに保管してあったうつ病の薬やサプリメントを一箇所にすべてまとめることにしたことが発端だという。次第にその日にやるべきことをすべて1つの箱の中に集めることで、日常生活において重要な事柄の忘却を、大幅に減らすことに成功したらしい。

著者は、「やるべきことに取り掛かる際」に、次のようなことを重視する。

  • 「一元化」(一箇所に集約する)、
  • 「常時一覧化」(常にやるべきことを目に入れられるようセットする)、
  • 「省エネ」(行動を起こす際の意志力を節約する)

「エブリデイボックス」は、この3要素をすべて達成できるような仕組みの1つだ。

こうした一元化のアイディアは、いまや整理法の種本として使われている、経済学者の野口悠紀雄が書いた『「超」整理法―情報検索と発想の新システム』などに見られる。

分類や整理というのは効率が良いように思える。だが実際は、分類や整理をする工程に時間が取られるし、作り上げたシステムで5年10年と分類が守られることは稀だ。しまいには「その他」が膨れ上がる。という具合に、とてもハードルが高いく、しっかりと検索性を考慮に入れないで仕組みを作ると大変な目に合う。

収納美の高さがあっても実用的でなければほとんど意味が無いのであれば、せっかくこさえた整理のシステムも錆びつく。多少のごちゃつきは犠牲にして、利便性と快適さを取るべきである。

僕は今の所、重要書類を「エブリデイボックス」のように整理している。重要書類ボックスを見れば、大雑多にクリアファイルで分けた重要書類たちが入っている。ここに入っていなければ確実に捨てているので、ない場合は書類の内容を問い合わせたり、再度送ってもらうという次の一手を即座に取ることが可能だ。

という感じで、一元化に対する抵抗感はさしてなかったので、まだ実践はしていないが、毎日、あるいは高頻度で生活に必要なものを一箇所に入れるための箱を近日中に注文するつもりだ。

「不得手」と「不可能」の洗い出し

発達障害には二次障害としてうつや双極性障害を患う方々がいる。著者自身もこの病に苦しみながら日々生活している。

著者の立場は「病と付き合う」であり、完治への甘い希望を捨てている。それはたとえ完治しても、「もしあのときのような不安感情の津波に襲われたら、という不安」に襲われるだろうと予期するからだという。

そこで著者は、うつや双極性障害などは、ほぼ一生モノと割り切る。だからといって「死ねばいいや」という麻薬めいた思考にとらわれてはいけない。この思考に慣れれば破滅的な未来が待ち受けている。ここはぐっとこらえて、頭が働くうちに、以下のような自己分析をすることを勧めている。

”Hack43 「向いていない仕事」を徹底的に避ける”では、せめて

  • 何が苦手であるか
  • 何が努力して克服できることか

これを洗い出しておこうと書いている。一度失敗した人間は、「何が向いていなかったのか」がわかるというアドバンテージがある。

僕の場合、広告代理店の営業で失敗し、携帯キャリアショップの店舗スタッフで失敗した経験から、営業は完全に向いていないことが分かった。

嘘と真の狭間であると分かっている情報を利用して、情報を持っていない人間に対して仕掛け、それで金を得るのは良心が痛む。

これは努力して心を鬼にし、「しっかりと契約書を読まなかった客が悪い」と思えば解決できるのだが、逆立ちしても思えそうにない。メリットもデメリットもどちらも同等に伝えた上で買ってくれるスキルを磨くセンスも無かったので、これはもう諦める。

また、失敗することによって「店」という大きなものに対する迷惑を与えたくないという思いがとても強く出てしまう。自責の念はチームで働く環境であればあるほどキツいので、ミスを個人の責任でカバーできる仕事を選んだほうが良いということになるのだろうか。

この自己分析の結果を満たす仕事なんかあるのか分からないけれど、とにかく自分が仕事を再度探すときの条件を絞れる材料にすることはできそうだ。

すべて真似をすることは無い

この本に出てくるテクニックの中には、「食洗機を買う」とか「カレンダー専用のタブレットを購入する」とか「食料品はすべてAmazonパントリーで揃える」などのテクニックが出てくる。

これらは、ADHDを抱える著者が考え抜いたライフハックであるが、著者も言うとおり、すべて真似をしなければならない事はない。金銭的事情や、ネットショッピングへの抵抗感などによって、実行不可能なものもあると思う。

核となるメッセージは、冒頭でものべたように「己を変えるのではなく、己が生きやすいように環境を整備せよ」であるから、それを指針として、自分の環境を自分なりに見直してみるといい。

実際僕はそうやって生活の仕方を見直した結果、QOLがある程度向上したと思う。だから参考にしなかったテクニックもある。そこは個々人の取捨選択によるので、気張って読む必要はない。

あまりイメージがわかないので具体例がほしいとか、アイディアに至るまでの他人の思考回路を覗き見したいとか、そういうことなら本書を読んでみて、実践するのが良いかもしれない。